141.


 月明かりを頼りにしない昼下がりの今は、攻撃を放って来た敵の姿がハッキリと視認出来ている。


 やはり左右に一本ずつ伸びた、枝の根元付近には一つの花が咲き。それよりも上の枝には蔦が絡み付き、木登りにには最適そうな木の魔物だった。


「聞いてたよりも最悪ね」


 覚えていてくれた事に一先ず安心するも、結局此奴が出てきた場合の対処方は決まってはいない。


「先に一本ね」


 独り言で呟いた望奈さんが矢を出し、弓につがえた矢を放つも、撓った枝がその矢を叩き落としていた。


「尖端か側面ね」


 ぶつぶつと独り言を話し、望奈さんの意識がいつも通り、戦闘狂に似通った状態になっていた。


「時葉さん、策は」


「これです」


 流石に無策だとは思いたくもなく。答えた時葉さんは、腰に下げていたポーチから小さな風船を取り出していたが、どう見ても水風船だ。


 終わった…


 まさか時葉さんまで、そっち側の人間だったとは。


「違いますよ!千田さん。これの中身は水じゃありませんから!」


 顔に表れていたのか、時葉さんが急いで釈明するが、屈んだ状態で水風船を手平に持つ女性なんぞ、誰がどう見ても真面目に戦闘してるとは思えん。


「知りませんッ!」


 躍起になった時葉さんが水風船を投げ、矢よりも遥かに遅いそれは、蔦で鞭打たれて破裂した水風船の中身が、敵の幹の部分に盛大にかかっていた。


 液体がかかって数秒で、木の化物は動きを荒らげ。枝を揺らし蔦を動かしては、液体がかかった身体部分を削り取ろうと、枝や蔦を激しく打ち付けていた。  


「うそ、何かけたん?」


「除草剤の原液です。だから水じゃないって…」


 聞けばちゃんと教えてくれたが、時葉さんは少し落ち込んだ様子で、敵を見てる訳でも無いが、目を合わせてはくれなかった。

 

 別に水とは言って無いですやん、思ってはいましたけど。


 今は、敵を倒すのが先だと思っている最中、視界の端で何かが光り、


「…一光纒いっこうてん


 視線を向けた先には、新たに一本の矢を引き構えた望奈さんが居たが、その矢は光源であるかのように光り輝いていた。


 針が駆け抜ける如く矢は飛び、残された光の軌跡だけを、目が後追いで捉え。敵に辿り着いた時には、木の幹にポッカリと細長い穴が出来ていた。


「ねぇ、木の心臓って何処よ」


 矢を放った望奈さんは、浮かれるでも喜ぶでも無く。困った表情で目をパチパチさせ、俺達に質問してくるが、誰一人として答えられず無言の返答が行われ。


 幹を貫かれ動きが鈍くなった木の化物を、全員が油断する事なく観察するが、そもそも根を断った所で、枝を地面にさせばまた根付くし、動いてるんだからそもそも、地面と常に繋がってる訳じゃ無いだろ。


「望奈さんが風穴開けまくって、倒しましょう」


「無理よ。後三回しか、射てないから」


 そんな手軽に連射が出来る、代物では無かったようだ。 


「マジックアロー」


 動きが鈍い今のうちにと試しに放った矢は、勿論弾かれる事もなく…ん?敵の幹に命中し、ハンマーで叩いたように朽ち落としていた。


「攻撃通ったわ」

「みたいね」


 除草剤と望奈さんの攻撃で弱ったのか。俺が放った矢は叩き落とされるどころか、敵は狙って枝や蔦を動かした素振りも無く。只々無防備に打たれただけだった。


(それなら…)

「マジックアロー・テトラ」

「射ね」


 俺と望奈さんが放った矢が敵に届き、身体の幹を大きく削り飛ばし、後二度三度と繰り返せば、凹みが出来た木は折れて、倒れると思っていた。


「マジック…」

「射…」


「二人共上だッ」


 友宏の叫び声が聞こえ、頭上を見上げた俺と望奈さんは、次第に大きさを増して迫ってくる黒い影を視認するも、一瞬にして大きくなる速度がその物体の速さと大きさを物語っていた。


「っバリア―」


 広く前面に張られた壁は脆く、落下してきた影の尖端が触れると意図も容易く破れ、減速せずにその尖端は俺の身体目掛けて伸びていた。


「そッ―」


 腹を貫かれるよりも先に望奈さんに引っ張られ、間近で見たクリーム色の尖端は、真ん前で制止し、


「一刀破砕ッ」


 その一瞬の隙に友宏が、振り下ろした大剣が当たるも、クリーム色の尖った物体は切れるどころか、逆に剣の刃が欠けた所で、俺達三人は同時に飛び退いていた。


「……」


 飛び退き距離を取った事で、全容が分からなかったが、距離を取った俺達の目の前には、体長3m程のカラスの様な真っ黒な鳥が、瀕死だった木の化物を片足で掴み、倒したまま居座っていた。


 木が大きかろうと、元の大きさからか威圧は感じないが、目の前に居る鳥系の魔物だろう生物は、久しい感覚を感じさせていた。


「っ…雷放スパークッ」


 最速で構えた手から、斜め上に目掛け電流を出すも、木を掴んだまま羽ばたいた敵は、空中にも漂った電流の範囲内からも離脱し、一瞥だけを行い飛び立って行った。


「敵が敵を襲ったのか?」


「状況的にそうなんじゃ、無いか。それか単純に襲ったていうよりは、巣に使う丈夫な枝が欲しかったとか」


 あのスケールの魔物なら、その辺の枝や木の幹よりは、魔物の方が硬質的にも色々と、良いんだろうな。


「一旦戻りますか?」


「いえ、このまま進みましょう。どうせ戻っても何も出来ません」


「では続行という事で」


 時葉さんが何かを合図を送っているが、いつもは左右の部隊の数名が視認出来れば良い方だったが、今は全員が視界に入り、硬直したまま此方を見ていた。










 


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