139.
「いたぞー」
森を歩き始めて数分もせずに、声が聞こえ視線を動かせば、斜め前を行くパーティーが一匹のウルフと対峙していた。
そのパーティーの内、半分は敵と向き合い威勢を見せるも、もう半分の人は一歩、二歩と後ろに下がり、少々威勢が足りてない気がする。
「行くなよ」
進み出そうとした友宏を止めたつもりが、視界の端で望奈さんすらも、ビクついていたのは精神衛生上見なかった事にしよう。
「ゲームじゃねぇんだから、準備運動は大切だろぉ」
「それで俺達が、不要な経験値を奪い続けても意味が無いんだよ」
(そんなに経験値がほしいなら…)
「泉ちゃん、悪いんだけどこのバッグ持ってくれる?」
不意に身体が軽くなり、止める間も無く望奈さんがドクロン入りバッグを、泉さんに渡そうとしていた。
「えっ、はい。別に大丈夫ですけど」
「ごめんね。この人も前に出るから、身軽の方が良いの」
なんて理由を話すのかと思っていたが、やはり俺が使われた。
「でもめちゃくちゃ軽いです、けど……」
ドクロン入りバッグを背負った泉さんは、その軽さに驚くもよりも、何か違和感を感じ取ったのか、背中に意識を向けていた。
「大丈夫変な物は入ってないから、でも、中は見ないでね?」
「あははは、千田さん、もぉそんな脅かさないで下さいって、怖いじゃ無いですかぁ~それに、人の物を勝手には見ませんよって。ぁああッ敵!ワンちゃんッ」
砕けた口調で話していた泉さんが急に、指差しながら叫んだ先には、三匹のクローマウルフがいつの間にか居た。
「マッ―」
「待ってくれ、準備運動だ」
「なら早くした方が良い」
「どういぅ…」
魔法を放とうとした俺を友宏が止めるが、本当に敵を倒したいのなら、俺よりも望奈さんを止めるべきだ。
既に飛び出した望奈さんは敵の真上を舞い、クローマウルフに突き刺した矢を軸に
、回転した足で一匹を地面に押し込み。突き刺した矢を、反対側のウルフに放った後だった。
「ほら終わった」
「何だよそれ…」
ぼやいた友宏は首に手を当て、落ち着いていた。
「素材ですっ」
敵が倒れた場所で、望奈さんがゆっくりしてる姿を見て、戦いが終わった事を察した泉さんが走り出し、俺の後ろから駆け出していた。
「左右の部隊が止まったら、自然と止まるように言ってありますが、我々が基点ですので余りゆっくりはしてられません」
「それなら進みましょう。行くぞ友宏」
「あぁ」
何か考えている友宏を進ませ、俺と時葉さんも望奈さんと泉さんが居る場所に近づき。
「泉さんちゃちゃっと終わらしてね」
「任せて下さい!もぉ終わってます」
声を掛けると泉さんは振り向き、その手にはクローマウルフの鋭い歯が沢山握られ、抜かれたウルフの顔には、瞳すらも無かった。
めっちゃ平然としてるんだけど、これ解体が仕事とか依然の話で、もう君、絶対に趣味とか中毒とか、危ない類だよね。
「準備おっけーですっ」
手際よく歯をポーチのような物に仕舞い、最終的にはナイフもそれに仕舞っていたが、明らかにナイフの方が長い筈なのに収まっていた。
「あの~泉さん」
「はい、何ですか?」
「その皮で出来た、ポーチは?」
「素材を入れる奴です」
「うんうん、じゃなくて。長いナイフも入ったよね?」
「少しぐらい大きくても入るので」
「そうなんだ、へぇ~どれぐらい入るの?」
「大きさは分かりませんが、量ならウルフ一匹ぐらいは入ります」
報告が無い大塚勢は置いとくとして、何その便利アイテムは、普通に欲しいんだが、もう一つ持ってないだろうか。
「どやって手に入れたの?」
「スキルにある収集袋で手に入れました」
「一つだけが作れるの?」
「作ったというか、出て来るので使ってます。二つは出ませんよ」
つまりスキルで生み出した物を出し入れして使ってるかのか、中身が消えないって普通に凄いと思うんだけど、良いな。俺も取りたいな。
「止まって下さい」
自然と歩きながら話していると、時葉さんに止められ、理由を尋ねる前に隣の部隊が、必死に敵と戦っているのが僅かに見えた。
「これなら、行った方が早くねぇか?」
「そんな急ぐなって、それに毎度左右の敵を倒してたら、その隣もってなるだろ」
急いで親玉を倒す必要もない、今はゆっくりでも前に進み、姿を現した時に仕留められればそれで良い。無理をしてまで、リスクを今は負いたくない。
「それもそうか、戦いたいがおもりはごめんだ。だから次は、俺がやるからんなッ」
「望奈さん聞いてます?友宏が何か言ってますよ」
「聞いてるわよ、すきにすれば?遅かったら私がやるだけよ」
「だってさ」
交代交代だと言いたいのだろうが、その提案を素直に受け入れる事は無く、遅ければと言われてしまうが、望奈さんの主観では大抵が遅いと判定されてしまいそうだ。
「それでしたら、私も戦ってみたいです」
獲物を取り合う二人の中で、一際小さい手が、俺達の目線の高さまで上がっていた。
「嘘でしょ泉さん…」
「本気ですっ、私だって一匹ぐらいなら倒せますよ。きっと」
何処からその自信が、満ち溢れてくるのか俺には分からないが、胸の前でもってきた両手で握り拳を作り、既に張り切っていた。
この二人から敵を奪うって、そっちの方が危険な…
「頑張って泉さん」
「はい、頑張りますっ」
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