71.
鎧のゴブリンを倒した途端に、勢い良く攻めてきていたゴブリン達が、一斉に引き、陣取った市役所周辺に集結し始めていた。
「区切りか」
ゴブリンが引き周囲の音が消え、仲間の名前を呼び叫ぶ二人の声が、辺りに鳴り広がっていた。
「「灯也!」ッ…」
近づいて来た白浜さんが、横たわる人影に叫びながら駆け寄る仲間の姿を目にし、遅れて気づく。
「えっ、灯…也?灯也ッ」
腹を突き刺され、剣を叩きつけられた身体の損傷は激しく、幾ら爆発の余波を受けていなくとも、辺り一面を染める血とはみ出した臓器が、絶命を示すには十分だった。
「いっやぁああああああああああっ………で、なんで、なんで、なんで、なんで、なんでっ…」
傍に座り込んだ白浜さんか泣き叫び、鈴木と九藤の二人がそれに感化され反対側で、静かに涙を溢れ出させ声を押し殺していた。
「なんでっなんでっ!HPがあるとは言ってたじゃんっそれなのに、なんで‥‥なんで‥なんで、なんで、なんで、なんでよッ‥‥」
「あ"いづは、俺を庇って‥すまない」
「なんで!どうしてよッ明宏が居たならどうにか出来たでしょッ!」
「止せ菜奈‥‥当たっても、仕方ないだろ‥」
「ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あ"あ"あ"あ"あ"―――――――――――――――――」
甲高く途切れ途切れの悲鳴が響き渡り、全員が静かに動きを止めていた。
出会って日が浅いとか、親しみが無いとかじゃない、俺は近づいちゃいけない、入れないのなら直ぐに離れ、視界に映る事させ避けるべきだろう。
「貴方は、行かないの?」
遠ざかる俺に望奈さんが声を掛けて来、ほんの僅かに手の平をこちらに向け、前に出していた。
「いえ、俺はいいです、望奈さんお願いします」
「そぉ‥‥分かったわ」
望奈さんは何も言わず了承し、ゆっくりと足先を変え歩いて行き、白浜さん達の近くまで行き、望奈さんが立ち止まったのを見てから歩き出す。
「五島さん無事ですか?」
戦闘してた所から離れた場所に放り投げられ、うつ伏せに横たわる五島さんに呼びかけるも反応は無く、死んでるのではと思ってしまう。
「五島さん」
脈は……あるな、それに大きな外的損傷は無いし、内部で壊れてない限りは大丈夫か、というか毎度思うが、この人の皮膚強度おかしくないか?どんなけ硬いんだよ。
「え、隊長!?」
「あぁ、大丈夫ですよ、まだ生きてます」
「ちょっとすいません、代わって頂きたい」
「どうぞ」
俺が一人で五島さんの容態を確認していると、女性隊員に続き男性隊員二名が遅れてやって来、一人の男性隊員に場所を譲り一歩後ろに下がる、が。下がった場所が悪かった、殺されかけ、殺しかけた女性隊員と真隣に並ぶ形になり、言い様のない雰囲気が出来てしまった。
「「………」」
「大丈夫みたいです、目に見張る負傷もありませんし、恐らく意識を失ってるだけでしょう」
「分かったわ、それじゃ貴方達二人で司令部に運んでちょうだい」
「はっ!……ん?失礼ですが、司令部に、ですか?」
「えぇ、陸将さんの前の床にでも置いておいたら、起きたら時の反応が面白そうでしょ?」
「は、はぁ‥‥」
「分かったらさっさと行く!」
「は、「はいッ」」
一人が五島さんを担ぎあげ肩に置き走り出し、もう一人がその後に続き、彼等はその場から逃げる様に足速に去っていった。
結局俺と女性隊員だけが取り残され、一瞬にして沈黙が蘇り、互いに言葉を詰まらせ暫くの間、互いに動かず思考を巡らせ先に口を開いたのは、女性隊員の方だった。
「殆ど何も出来なかった…」
急に一人語りの様に話された俺は、それに返すべきか、言葉を待つべきか一考し、思い止まってしまったが、女性隊員は喋り続けた。
「市民も守れず、敵には好き勝手され、己の無力をさらけ出し、自衛隊全体で醜態を晒したも同然よ…………それに、盾になる事すら叶わず、挙げ句の果てに守られるなんて自衛官失格ね。本当に―」
「それは俺に言っても仕方無いです」
言葉を割り込ませ、彼女が言おうとしていた言葉を遮り、止めさせる。
「‥でも君だって」
「相手に迷惑を掛けた時か、期待に応えられなかった時だけ謝って下さい、その点で言えば自分は違う事で謝って欲しいものですがまぁ、それは後で清算するとして。別に俺は、誰かに期待してませんし、特段信用なんてしてないんですよ」
俺の話しを聞いた女性隊員は、首を傾げ望奈さん達が居る方を一目見るが、その視線は直ぐに戻り、目が合う。
「君はあの子達の友…仲間でしょ?」
友達と言いかけた言葉を止め、仲間と言ってきた彼女の意図が、何を示しているのか分からなかいが、総じて言えば違う。
「あれらは―いえ、そんな事を話してる場合じゃなかったですね、早く向こうに行って好きなだけ懺悔でもしてきて下さい、じゃないと俺が恨まれてしまう」
このまま話をして居ても仕方ないと思った俺が、離れてもらう為に話しを変える。
「気にするのですね。聞きたい事はありますが、確かに君にこれ以上押し付けてしまえば、我々の存在意義が無くなりかねない。ですから今は、私が自衛官として自衛隊が担うべき物を担います」
短く敬礼をした女性が綺麗に身を翻し、歩いて行った。
そんな重荷を背負わせたつもりは無いが、背負うと言うのならば最後まで完遂してくれる事を願うだけだが、行き着く先はそう良くは無いだろう。どうあがいても、非が無い者が行う事には限界が在るのだから。
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