69.


 合流した場所から視線を遠くに向け、目を凝らしよく見ると、背の高いゴブリンと九藤達が戦ってるのが見えた。


「華憐も真姫も見えないんだけど何で!?」


「白浜さんが分からないなら、俺が分かる訳ないだろ」


「取り敢えず早く行こッ」


 目に見えたと言っても、広範囲に開けた自衛隊の滑走路内であり、まだまだ遠く、此処まで攻め込まれてるのは余りにも想定外だ。


 此処が突破され、次の防衛ラインが落ちれば、後は避難所がある最終地のみだ。


「退きなさいよッ」


 走りながら疎らに広がるゴブリンを白浜さんが攻撃し、一直線に走り、九藤さん達の所に向かう。


「えいッ」


水矢ネルロースアロー


 幾ら疎らであっても、密集してる方向に向け放てば、矢が数十匹は纏めて貫殺し、効率が良いと言うものだ。


「はぅあッ」


 白浜さんはゴブリンを殺し進んで行き、その後を追う俺の目がふと何かを捉えた、まるで黒い点が横から横に流れ動き、一瞬にして制止した黒い影が止まると、沈みかけた夕日をその影が反射させていた。


「受け取れッ」


 カバンと一緒に望奈さんを押し付け、反射的に白浜さんが抱き止める。


「ふぁっ、ちょ。どうやって戦えばぁ~!」


 気づいた時には身体が動き、俺は無我夢中で地を蹴り駆け出していた。


≪職業・堅士を魔術士に変更しました≫

≪職業補正によりINT+2・DEX+1されステータスが変化します≫

≪スキル・魔術展開―魔攻炎岩・魔術付与―重軽化を獲得しました≫

≪パッシブスキル・並列回路を獲得しました≫


「魔術付与―重軽化」


 自身に魔術を掛け、軽くなった身体で全速力で走り、視界の横ではゴブリンが流れる様に過ぎ去り、風がすき抜ける様に止まる事無く、集団を駆け抜け放つ。


水矢ネルロースアロー


 いつもより高い位置で放った矢は、他のゴブリンに命中する事無く、真っ直ぐ鎧を着たゴブリンに向かって飛んで行った。


 遠距離から放ったその矢にゴブリンが気づき、一歩歩みを進め難なく避ける。


「くそッ」


 魔術を掛け全力で走ろうが、望奈さんの様に一瞬で近づく事が出来ず、まだ最初の半分程ある距離が、果てしなく遠く感じていた。


 矢を避けたゴブリンが、放った者を確かめる様にこちらを向き目が合う、そしてゴブリンがニヤリと表情を変えるのが、甲冑越しでも伝わってきた。


「止めろよッおいッ!水矢ネルロースアロー


 放った矢が真っ直ぐ飛ぶも、到達するよりも先に動いたゴブリンの姿はその場所には居らず、数メートル先に進んでいた。


「舐めんじゃねぇええッ」


 九藤に迫った鎧のゴブリンに対して、即座に麓山が蹴りを放つが、半身を反らし避け、避けた先を予想していた五島が上段から踵を振り下ろしていた。


「ッ」


 声も出さず背後から接近した、五島の攻撃を鎧のゴブリンが気づく事無く、仰け反らせた胸に綺麗に入り、鎧と硬い物が当たり大きな音を鳴らしていた。


「ギィ"]


 短く笑う声が二人の耳に届き、地面に叩きつけ様とする五島の足を右手で掴み、ゴブリンが乱雑に横に放り投げた。


「五島さッ―!?」


 足を掴み人一人を放り投げたゴブリンは、蹌踉めく事無く片足を一歩動かし、左手に持つ剣の間合いに入った麓山目掛け、剣を動かしていた。


「マジックバリア」


 麓山に身体をぶつけながら、間に割り込んだ九藤が、壁を斜めに展開させ、壁をなぞった剣の軌道を変わり、二人の頭上を掠めた。


「退けッ」


 九藤が割り込み、押された事で俯瞰して見る事が出来ていた麓山が、剣の軌道が変わった刹那九藤を退かし、入れ替わるように立っていた。


「っぅ.....ゔぇッ」


 流された剣の軌道から、手首の向きだけを変え、切っ先を動かしたゴブリンが、剣を進ませ麓山の腹部を突き刺し、無造作にも引き抜かれ、刺された箇所と口から血を溢れさせた麓山は、剣を抜かれた反動で地に伏していた。


灯也とうやぁッ!!!」


 九藤が駆け寄り、傷口を抑え叫び、何度も何度も呼びかけても返事は無く、ゴブリンが、それを待つ理由は何処にも無かった。


 引き抜かれた剣をゆっくりと振り上げ、確実に九藤を狙った攻撃が振り下ろされ、九藤は迫り来る剣を目で見据えるも、身体の反応が間に合わない事を知っていた。


「ぐッぅ」


 突然蹴られた九藤が理解する間も無く、横に蹴り飛ばされ、何度も何度も地面の上を転がる。


「何してるの君、最後まで足掻きなさい。それが貴方を助けた友人の為になるのだから」


 九藤を蹴り飛ばした女性自衛隊員は、九藤の方を見向きもせず冷たく言い放ち、鎧のゴブリンの動きに神経を注いでいた。


「ぁ”あ”ッ”‥‥」

 

 九藤を狙った攻撃が空を切り、地面に横たわる麓山の身体を切り分ける様に、食い込み、その光景を目にした九藤が哀惜を漏れ出させ、その場で竦んでいた。


「死体なんてあるだけ、良い方よ、貴方達戦わないなら逃げなさい、邪魔」


 女性自衛隊員が、九藤と鈴木の二人に言い放ち、それに対して鈴木だけが反応を示し、九藤は時が止まった様に固まっていた。


「彼奴だけは許さない」


 そんな二人の反応を見て、女性自衛隊員は微笑を浮かべるのだった。



 

 


 


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