レモン味のラムネ

　ここは、日本（にほん）なのだろうか。

　まだ混乱（こんらん）している脳（のう）が目（め）の前（まえ）の景色（けしき）を勝手（かって）に自分（じぶん）の馴染（なじ）み親（した）しんだ日本（にほん）の景色（けしき）に変換（へんかん）しようとしているせいか、幡宮市（はたみやし）は一見（いっけん）、ごく普通（ふつう）の日本（にほん）のどこかの地方（ちほう）都市（とし）にしか見（み）えない。しかしよく目（め）を凝（こ）らしてみると知（し）っているものがまるでなく、やはり異世界（いせかい）としか言（い）いようがなかった。

　手始（てはじ）めに観光（かんこう）案内所（あんないじょ）に行（い）ってみたが、入（い）り口（ぐち）の横（よこ）に「奈津崎県（なつざきけん）観光（かんこう）地図（ちず）」なるものが掛（か）けてあった。それによると、私（わたし）が今（いま）いるのは奈津崎県（なつざきけん）の県庁（けんちょう）所在地（しょざいち）、幡宮市（はたみやし）というところらしい。南海道（なんかいどう）にある奈津崎県（なつざきけん）は香山（かやま）県（けん）や伊波（いなみ）県（けん）などと隣（とな）り合（あ）っていて、先（さき）ほど私（わたし）が乗（の）ってきた「環状（かんじょう）広軌（こうき）新線（しんせん）」、通称（つうしょう）「広新線（こうしんせん）」でつながっているとのことだった。

　まず、日本（にほん）には「奈津崎県（なつざきけん）」などという県（けん）は存在（そんざい）しないし、九州（きゅうしゅう）でも北海道（ほっかいどう）でもなく「南海道（なんかいどう）」という名前（なまえ）の島（しま）があるなんて悪（わる）い冗談（じょうだん）のようだ。しかしもしこれが本当（ほんとう）だとすると、今（いま）私（わたし）がいるのはやはり日本（にほん）のようで日本（にほん）ではない別（べつ）の世界（せかい）というしかない。