第231話 それぞれのあれから 3

 フェデリーコはプリズマーティッシュの王立学院に留学の為にやって来て、今月の終わりに卒業を迎える。


 十五歳で入学した彼は今年で十九歳になる。


 フェルナンとフェデリーコは騎士団の練習場で剣を交えていた。


「今日もありがとうございました。」


 練習に一区切りを付けた二人は、壁に寄りかかって座る。


「いやっ。構わない。フェルナン殿はまだ十二歳だと言うのに、剣の腕が良いから、私の方が訓練をしてもらっているみたいだ。」

「私は、父と母に小さな頃から鍛えられました。一生、あの二人には敵う気がしません。」


 汗を拭きながらフェルナンが言うと、フェデリーコの明るい笑い声がした。


「諦めるのが早いのではないか?…しかし、私の十二歳の時など、王子に生まれたと言うだけで偉ぶっていた。今思うと恥ずかしいばかりだが…。君は学院に通ったら、騎士になるのか?お父上のように。」

「生物学上の父と母は二人とも魔力が強かったので、私も橙か赤色の魔力を授かるのだと思います。なので…まだ父や母には言っていませんが、魔獣討伐の第一団隊を希望するつもりです。」


 そこに、里桜の侍従のアルフレードがやって来た。


「フェデリーコ殿下。王妃陛下がお呼びでございます。よろしければ、フェルナン様も。」


 フェルナンとフェデリーコ、その側近二人が王宮の応接間に通された。しばらくして、アナスタシアと騎士を伴った里桜がやって来た。


「待たせてしまってごめんなさいね。」

「いいえ。何か御用でしょうか?」


 向かいの席に座った里桜にフェデリーコはにこやかに話しかける。里桜はひとつ頷くと、騎士たちに合図した。フェデリーコとその側近二人に剣を渡す。


「随分前に作っていたのだけど、殿下も今月で学院を卒業するし、渡すのは今だと思って。私が作った魔剣です。卒業祝いとして受け取ってちょうだい。」


 三人はその剣をまじまじと見つめる。


「あなたたち三人はあまり魔力は強くないから、フェデリーコ殿下には火と風、ベルナルドには水と風、ロドルフォには土と風の魔術を付与しておきました。国に帰っても剣術に励んで下さいね。今、学院で使っている魔剣とは違い、使い慣れるまでコツが必要になるみたいだから、こちらにいるうちに慣れておいた方が良いでしょう。」


 三人は礼儀正しく礼を言った。


「フェルナンも学院へ入って、卒業の時にあなた専用の魔剣を渡しますから、剣術の訓練は欠かさないようにね。」

「私にも頂けるのですか?」


 驚いた様子のフェルナに笑いかける。


「えぇ。もちろんよ。リナの剣も私が作ったリナ専用のものなの。」

「知っています。母は寝る前に必ず手入れしていて、とても大切にしています。」

「もう随分と昔なのだけど。もうそろそろ新しいものを作り直すと言っても、これを大切に使うと言い張って。」

「母にとっては何よりの宝物なのだと。父も言っています。」

「そう。何だか、照れてしまうけど…でも嬉しいわ。練習中に呼び出してしまってごめんなさいね。それじゃ。」


 里桜は、四人を残して部屋を出て行った。 



 

 騎士の声かけに、‘どうぞ’と返事があり、フェルナンが部屋に入ると、ジャンとルネがきゃっきゃはしゃぎながら夢中になって紙をちぎっていた。


「フェルナン。もうそんな時間なのね。」


 フェルナンは午前中に家庭教師の授業を終わらせ、午後に二時間程度、騎士団の練習場で剣の訓練をしてそのまま王宮の図書館で時間を過ごし、夕方にジャンの部屋に行って、仕事を終えたリナとルネと一緒に帰宅するのが最近の過ごし方だった。


 ルネは兄を見つけると、満面の笑顔で兄に抱きついてきた。


「ルネ。なんの遊びをしてるの?」

「ちぎってる。」

「そうか。ジャン様より沢山ちぎったか?」

「違う。ちっちゃくちぎった。」

「小さくしているのか。ほら、ジャン様がもっと小さくちぎってるよ。」


 フェルナンは、ルネと一緒に下に座った。


「先ほど、フェデリーコ殿下と一緒に王妃様に呼ばれました。」

「何かあったの?」

「いいえ。フェデリーコ殿下へ王妃様がお作りになった魔剣を渡していらっしゃいました。」

「そうなのね。」


 リナはほっとした顔をする。


「私が学院を卒業する年になった時、私専用の魔剣を作って下さるそうです。」

「そう。それは良かった。」

「母上。学院を卒業したら、騎士団に所属し、第一団隊を希望しようと思っています。」


 床に座ったフェルナンは、椅子に腰掛けているリナに上目遣いの視線を送る。


「私は、良いと思うわ。お父様にはご自分から話しなさいね。」

「反対はされないのですか?」

「反対して欲しかったの?」

「いいえ。されたとしても、希望は曲げないと思います。しかし、多くの第一団隊の騎士が、親から反対を受けていたと聞いたことがありました。」

「反対された親御さんは、子供が怪我しないようにと心配なんだと思う。その気持ちも分かるし、私も心配だけど…王妃様の侍女を長くやっていたせいかしら、反対する気にはならないわ。これからはもっと剣術に励みなさいね。それが自分を守るためでもあるんだから。」

「はい。」

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