第132話 煩う 2
里桜は神殿の廊下を歩きながらため息を吐いた。目覚めてからから六日目、今日から神殿の仕事に復帰していた。あと二、三日休む様に言われていたが、休んでいると毎日の様にレオナールの兄弟たちから呼び出されてしまう。そして、決まってレオナールと何があったかと聞く。
話すような事は何もない…けれど…。お妃様が懐妊したと聞いて、傷ついた自分に動揺した。一国の王が世継ぎを考えるのは当然のことで、とても自然な事だ。だけど…頭と心が一致せずに苦しい。それで、意図的に陛下から距離を取っていた。
それを察した陛下は、私が体調を崩していないかとか、魔力に異変がないかとか自分で確認すれば済むことを周囲の人たちに聞いて回っているみたいだった。連絡事項があると理由を付けては私をお茶に誘っていた陛下が、私に会おうとしない事をみな心配している。
「リオ
振り向くと、マーガレット神官がいた。私を探していた様で、少し息が上がっている。ジョルジュには図書館へ行くと言付けていたが、マーガレットには言っていなかった。
「図書室へ行っていて、ごめんなさいね、何も言わず出て行ってしまって。」
「いいえ。」
「ロベール尊者の部屋に行ってみます。ありがとう。マーガレト神官。」
彼女はニッコリ笑って、神官の控え室の方へ行った。
∴∵
里桜がノックをすると、ロベールの返事が聞こえた。
「お呼びでしょうか?」
「あぁ。座って。」
里桜が椅子に腰掛けると、ロベールは一枚の書類を里桜の前に寄越した。その書類は、養子手続きが完了した証明書だった。
「もう少し時間がかかるかと思ったが、少し裏の手を使って、思ったより早く手続きが済んだ。これで正式に私の養女と言うことになった。これからは私がここでの家族だ。」
「色々とお手間をおかけしました。」
「いいや。手間など何もない。たまに用意してくれる茶菓子やお茶をもらう度に、もし自分に妻がいて、例えば娘などいたらこんな時間を過ごしていたのか…などと考えたりしていた。これは、私自身の長い間の夢を叶えただけなんだ。気にすることはない。」
ロベールの優しそうな微笑みに、里桜も笑って返す。
「ありがとうございます。お
「おとうさま…か。」
「私のことも里桜とお呼び下さい。」
ロベールは座っていた姿勢を直し、
「では、さっそくだが。父として聞く。リオは陛下のことをどのように思っている?もうリオはこの国で押しも押されもせぬ貴族令嬢だ。魔力も強く、若く、美しい。リオが望むなら陛下との婚姻に何の障害もない。しかし、リオが王妃の座を拒むのならば、私はどんな手段を取っても陛下からリオを守ろう。私にはそれが出来る力がある。だから…本当はどうしたい?私には嘘や建前なく答えて欲しい。どうか素直な気持ちを聞かせてくれないだろうか。」
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