第104話 舞踏会 終
「フレデリックはとてもリードが上手ね。」
「そうでしょうか。」
「えぇ。少なくとも私は踊りやすいよ。」
「一度もそのように言われたことはありませんでしたが…。」
「パートナーも照れているんじゃないかな。きっと。」
「そうでしょうか…今になっては聞けませんが。」
里桜が、どうしたのか聞こうとした時に、音楽は終わってしまった。
「これで、やっとプリズマーティッシュへ帰れる。」
里桜が笑ってフレデリックを見ると、フレデリックも安心した様に笑った。
「フレデリック・オードラン殿。」
里桜とフレデリックが振り向くと、昨日リュカから紹介を受けていた、エマヌエーレ・セヴェリーノ侯爵だった。たしか、プリズマーティッシュとエパナスターシと国境を接しているバハルと言う街を領地としている武芸に秀でた侯爵だったと説明されていた。フレデリックの家は外交に強い家。領地こそ離れているが、そこの嫡子と顔見知りになりたいと思うのは当然だろう。
「セヴェリーノ侯爵。」
フレデリックが笑顔で応じると、彼は何か言いにくそうな雰囲気を出す。里桜は、察して顔を伏せたままカーテシーだけをしてその場を去った。
壁際にいるはずのリュカやアナスタシアを探すが、見当たらない。昨日の午餐会の様に人々は視線は寄越すが、声はかけてこない。聞こえよがしな噂話も聞こえてこないが、二日目に気を遣い始めるならば、昨日から気を遣って欲しかったと思う。
「私に言われましても。」
リュカの余所行きな話し声が聞こえる。近寄ろうとした時、里桜の腕を誰かが掴んだ。振り向くと、ヴァレリーだった。
騎士であるヴァレリーが突然腕を掴んでくることは珍しい。里桜は大人しくヴァレリーに従って逆側の壁際まで付いて行った。
「どうしたの?」
「リオ様と話したいという方々がカラヴィ様やアナスタシア様に集まっています。」
「私と?」
「はい。リオ様がこちらの国でも魔術を使えると噂になっているようで。」
「ヴァレリーの所には誰も来ないの?」
「隣国の子爵子息の名前など、この国の方々は知らないのでしょう。」
「もしかして私は、魔力を使えることで急に誰よりも“貴い方”になったって事?」
「そのようでございます。」
「だから、名も知らない男に声をかけることも出来ず、貴い私にも声をかけられず、みんなあんな遠巻きに私たちを見ているの?」
「そのようでございます。」
確かに、フレデリックやアルフォンス、コンスタンもアナスタシアたち以上の人に囲まれている。まぁ、でもあの三人とは私の仲介云々より本人たちとのパイプ作りも目的だろう。
そう話しているうちに、一人の恰幅の良い男性がゆっくりとこちらへ歩いてくるのが見えてきた。もう獲物を狙う鷹の目になっている。
「ヴァレリー見て、この中で私たちに声をかけようとする猛者が現れた。」
「カラヴィ様よりきちんとお断りするようにと…」
「大丈夫。ちゃんとお話しするから。彼に言われた通りに私を紹介して。」
「リオ様。」
「それも外遊の役目だから。国のお金で私はここに来ているのだから、これでやっと役割を全うできる。でしょ?さっ笑顔を作って。ヴァレリー。」
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