第17話 転生十六日目 2

「と言う人間関係もございまして、ご令嬢自身は、とても良い方で、舞踏会などでお目にかかって、お話しする分には問題ございませんが、男女が出席する大規模なお茶会となりますと、お断りになった方がよろしいかと、存じます。」

「なるほど…。アナスタシア先生のチェックを頂いといて良かったです。そんな政治的な面で考えていなかったので。お茶会って響きからもう少し平和的なものと思っていたので。」


 アナスタシアは一通の招待状を端によけ、二通を里桜の目の前に置いた。


「リナさんに相談されても十分にお答え下さると思いますけれど。そこで…私が数多くのお誘いの中からお勧めしたいのが、アペール男爵家令嬢フルール様のお茶会です。」


 一通の招待状を指さした。


「お家は男爵と下位ではございますが、先王時代に容易に倒す事が出来ない魔獣が複数現れ、魔術の扱える者たちだけでは対応することが難しく、当時魔剣なども数が限られておりました。そこに多額の寄付をして下さったのが、まだ爵位を持っていなかったポール・アペール様でした。代々の家業だった貿易で財を成しましたが、そのお金を国民の命を救うために使って欲しいと。この国の軍事予算にも及ぶ寄付でございました。その功績が認められ、先王より爵位を賜りました。貿易で生業をしているためか、革新的なレオナール陛下ととても気が合い、陛下も懇意にしておりますの。ご令嬢は御年十六歳でリオ様より年若いですが、お父様譲りの博識でいらっしゃいますので、お話しなされば楽しいと思います。」


 里桜の頭は“国家予算を寄付”のところでフリーズしていた。

 アナスタシアはもう一通を指さし、


「あと、レオタール伯爵家令嬢ジゼル様のお誘いもよろしいかと思います。とにかく歴史の古いお家でございまして、所蔵の歴史書は一見の価値がございます。ご令嬢のジゼル様は、普段より読書がお好きで、お茶会においでになる方々も読書好きの博識な方ばかり。お話しを聞かれるだけでもためになりますわ。」


 アナスタシアはにこやかに話す。


「先ほど、先生もおっしゃっていましたけれど、ご令嬢自身が良い方でも、政治的に微妙な間柄の方たちとはお付き合いに気をつけないといけなかったり、するんですよね。」

「そうですね。リオ様自身にすでにお力があるのです。」


 里桜の表情が少し曇る。


「ご心配はいりません。私が居ります。私の役目はリオ様の力を我欲のままに利用しようとする輩からリオ様をお守りする事でございますから。」


 その時、ノックが聞こえ、アナスタシアが返事をすると、クロヴィスがリナを伴って入ってきた。


「失礼するよ。」


 アナスタシアと里桜は素早く礼の姿勢を取る。


「堅苦しいのはやめてくれ。」


 その言葉で、二人は姿勢を戻す。


「リナもちょうど良いから、一緒に話を聞くように言ったんだ。さて、本題だけど。アナスタシア、陛下から例の件裁許を頂いたよ。」


 その言葉を聞いて、アナスタシアはさっと、立っている里桜の目の前に跪いた。それは、貴人に対して行う、盟約の時の礼だった。里桜はその礼の重要性は分かりながらも、突然の事で理解が追いつかない。


「先ほども申しましたが、わたくしアナスタシア・カンバーランド、この先貴方様を主とし、貴方様をお守りする事をここに誓います。」

「アナスタシア先生?」

「もう、先生とはお呼びになりませんよう。私はリオ様の侍女でございます。これから、リナさんと共にリオ様をお守り致します。」


 その言葉で、リナも同じように里桜の前に跪く。


「リオ嬢、これからは、彼女たちの力がとっても重要だと思うよ。さっ声をかけてあげて。」

「え?…あっはい・・・え?」


 里桜は、先ほど講義の時にアナスタシアから聞いた宣誓の儀式の雑談を思い出した。


「えっと…ふぅ。謙虚であれ、誠実であれ、己の品位を高め、主の敵を討つ矛となれ。」


 二人は頭を垂れてから、ゆっくりと立ち上がった。クロヴィスが‘さて、’と発した。


「リオ嬢には神殿に身を置いてもらう事になった。身分は聖徒として。住まいも今の王宮の客間ではなく寮があるから、その一室になる。リナは今まで通り、侍女として、アナスタシアは同じ、聖徒として側にいてもらう事になる。一介の聖徒に侍女二人はさすがに目立つからね。部屋の移動は出来るだけ速やかに。」

「わかりました。」

 

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