第3話 回想 1

 横浜の海近くにある赤煉瓦倉庫の側を通ると、広場に露店が連なっていた。置かれている看板を見ると、ハンドメイド作家たちの露店が出ているようだった。

 二十三歳で本来ならば、巷の女の子と同じようにアクセサリーやバックで着飾りたいところだが、高卒で大きくもない企業に勤め、一人暮らしをしている身には、家賃と生活費を出してしまうと着飾るために捻出できるお金はほとんどない。それでも、看板の‘入場無料’という赤文字に惹かれ、中を散策することにした。

 そのうちの一店舗。それぞれの露店が一見してどういう趣味の物を売っているのかわかりやすくしているのに対し、一見では何を売っているのかわからないシンプルすぎる店があった。


「いらっしゃい。お嬢さん。」


 年齢は私より少し上だろうか、おじさんとも、お兄さんとも声のかけにくい男性が店番をしていた。ベルベット調の布がかけられた、学校の机ほどしかないテーブルに置かれていたのはエキゾチックな雰囲気のアクセサリーだった。

 アクセサリーを売る他の露店は数千円から数万円くらいの値段のアクセサリーが並べられていたが、ここは一番高くて数千円という、リーズナブルな価格帯のものが売っていた。

 そのうちの一つを何気なく手に取った。周囲はもう薄暗くなっていていたが、照明の光を受けて、きれいに光っていた。


「すごくキレイ。」


 思わず、声に出していた。


「キレイだと思う?」


 こくりと頷いた。しかし、値札には三千円と書かれている。数日分の食事代をアクセサリーひとつには使えないし、石はキレイだが、このエキゾチックなデザインは普段の自分には似合わない。

 店主に遠慮するように少し伏し目がちにゆっくりと戻そうとした。


「お嬢さんのそのピアスも手作り?」

「はい。自分で作りました。」

「もし、その石が気に入ったなら…」


 男性は机の下をガサゴソと探って、白いケースを取り出した。ケースを開くとそこには手に取ったネックレスと同じ石が入っていた。石は大小様々。男性はその中からネックレスの物より大分小さい一粒をつまみ差し出してきた。思わず手のひらで受け取る。


「自分で作るなら、その石売ろうか?」


 手のひらの石をつまみ、遠くの街灯に照らす。


「オーロラでキレイですね。」


 1㎝ほどのドロップ型の石ならば、二個で数百円程度のものが多い。


「ピアスにしたいので、同じくらいの大きさか、同じ形のものもう一つありますか?」

「うん。あるよ。ピアスなら。これなんてどう?」


 先ほどより一回り小さいドロップ型の石には、金具の為の穴も開けられていた。


「おいくらですか?」

「二つで三百円。」

「じゃ、それお願いします。」

「はい。ありがとうね。」


 男性は石だけを買ったとは思えないほど、丁寧でキレイにラッピングをしてくれている。


「お名前、聞いてもいい?」


 男性の手元には名刺サイズのメッセージカードが置かれている。何度か、ハンドメイド作品を売るサイトで買い物をしたことがあるが、メッセージカードが同封されていることは多い。


「早崎里桜です。早朝の‘早い’に長崎の‘崎’、里に桜で、りおです。」

「早崎・・里桜さんね。」


 そう言いながら男性は、スラスラと文字を書く。最後に、包みの上にメッセージカードを乗せて差し出した。


「お買い上げ、ありがとう。里桜さん。価値ある人生を…」


 笑顔で、商品を受け取りながらも、不思議な事を言うなと少し首をかしげた。

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