しょうたくんと電車のおばけ

 今日は電車に乗ってお出かけです。

 鉄道が大好きなしょうたくん、電車に乗れるだけで大喜び。

 テンション爆上がりです。


 さっそく最寄りの駅から各駅停車に乗りました。

 昼間の各駅停車はとても空いていて、車内の人がみんな座っていてもまだまだ空席があります。

 しょうたくんはおかあさん、よしつぐ兄ちゃん、さくら姉ちゃんと一緒に空いている席に座りました。


 次の駅で、向かい側の席にお姉さんが座りました。

 近所の高校の制服を着た、ごく普通の女の子です。


 お姉さんは座席に座ると可愛らしいポーチを取り出しました。そして中味を座席にずらっと並べると、お顔にぺたぺたと色々な物を塗り始めました。


 するとどうでしょう。お姉さんの素朴でかわいらしいお顔がみるみるうちに変わってきたではありませんか。


 つぶらな目は太くくっきりとした黒いラインで縁取られ、長くばっさばさの黒い草みたいなまつ毛で囲まれて、さっきまでの倍の大きさに見えます。

 小さく引き締まった楚々としたお口は真っ赤なルージュに彩られ、ぼってりとした質感を放っています。


 もうおとなしそうなごく普通の女子高生はどこにもいません。

 極彩色に作り上げられたお顔は窓から見える雑誌の広告の女の子たちのように笑っているはずのにどこを見ているのかわからないような無機質な表情で、まるでできの悪いCGのよう。もともとのお顔がどんなだったかはもうわかりません。


「ふ……ふえぇ……」


 お姉さんの「変身」する様子を見ていたしょうたくんは、すっかり怖くなってしまいました。


「こわいよう……おかあさん、お兄ちゃん、おばけがいるよう……」


「だいじょうぶだよ、こんなに明るい時間の電車の中におばけなんか出ないよ」


「だってあのお姉ちゃんお顔が変わっていくよ。おめめもお口もどんどんおっきくなってるよ」


 しょうたくんはふるえる手でお姐さんを指さしました。

 さくら姉ちゃんが「人を指さしちゃいけません」とその手を下ろさせます。

 車内の人たちの視線がお姉さんに突き刺さります。


「ひっく……おばけいやだよう……」


「だいじょうぶ、兄ちゃんがついてるから」


 なかなか泣きやまないしょうたくんの怯え方と、他のお客さんたちの冷たい視線にいたたまれなくなったのでしょう。

 お姉さんは慌てて座席の上に広げた化粧道具を片付けると「うっせぇな!!」と一言毒づきながら、次の駅で電車を降りて別の車両に移っていきました。


 気合の入りまくったお化粧は途中経過を幼児に見せてはいけないようですね。

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