さくら姉ちゃんとスカートめくり

 しょうたくん家のさくら姉ちゃんは小学三年生。太ももまである長い髪を三つ編みにまとめた、一見おとなしそうな女の子です。


 なんで一見かと言うと……中味は全然おとなしくありません。


「おい、歌川!!今日こそ男の方が女より強くてえらいことを思い知らせてやる!!」


 おや、下校中のさくら姉ちゃんの前に男子が二人立ちはだかりました。

 一人は五年生と言われても不思議じゃないくらい背も高くてがっしりとした、いかにも強そうな男の子。この寒い季節だと言うのに半そで半ズボンです。

 もう一人はとてもおシャレで、髪はトップだけ明るい茶色に染め、サイドには剃り込みが入っていて襟足だけを長く伸ばしています。


 さくら姉ちゃんは深々とため息をつくと、一緒に帰って来たお隣のあすかちゃんにランドセルとかばんを持ってもらいました。


 さくら姉ちゃんがあすかちゃんの方を向いたスキに剃り込みくんが回し蹴りを繰り出します。見た目は派手ですが、とても大きな動きで軸足はブレブレ、実にスキだらけです。

 さくら姉ちゃんは呆れたように剃り込みくんの定まらない軸足をちょんっと払うと、剃り込みくんはあっさり転んでしまいました。

 もちろん、その間にガッチリくんもぼうっと見ていたわけではありません。拳を固めて殴りかかりましたが、さくら姉ちゃんは軽く後ろに下がりながらその拳に手を添えてそのままの勢いで引っ張ります。

 ガッチリくんは自分の殴りかかった勢いのまま前につんのめって転びそうになりました。


「今日もさくらちゃんの勝ち!やっぱりさくらちゃん強いね!!」


「う……うん。どうなんだろうね……」


 明るい声で言うあすかちゃんに、げっそりとした声のさくら姉ちゃん。


「くっそ!この男女め!!」


 剃り込みくんとガッチリくんは逃亡……じゃなくて「戦略的撤退」をすることに決めたようです。

 あっという間にどこかに消えてしまいました。


 二人が家の前まで帰ってくると、中学から帰って来たよしつぐ兄ちゃんに会いました。


「……っていう事があったの!つぐ兄ちゃん、すごいでしょ!!」


 よしつぐ兄ちゃんに嬉しそうに教えてくれるあすかちゃん。


「まったくしょうがないな……どうしてそんな恨まれるようなことになったんだ?」


 よしつぐ兄ちゃんは呆れた様子です。さくら姉ちゃんに護身術を覚えるように言ったのは兄ちゃんですが、まさか男子にそんな恨みを買って喧嘩をふっかけられているとは。それも一度や二度ではなさそうです。


「ずっと前だけど男子が三人でかほちゃんをつかまえてスカートめくりしてたことがあったの」


「あいつらひどいんだよ。かほちゃんが怖くて動けなくなってるからって調子に乗ってパンツまで下ろそうとしてたんだよね」


「うん、だから頭に来ちゃって。ついみんな投げちゃったんだ。あすかちゃんが先生呼んでくる間に」


「それからずっと恨まれてて、今日みたいに時々待ち伏せされて勝負しろって言われるんだよね」


 あすかちゃんとさくら姉ちゃんが代わる代わる説明するのを聞いて、よしつぐ兄ちゃんも頭が痛くなってきました。

 間違いなく集団でスカートめくりなんかする男子が悪いです。れっきとした犯罪です。

 まして下着まで脱がせようとするなんて、イタズラなんて言葉でごまかしてはいけません。


「たしかにそいつらもタチ悪すぎだが、さくらもやりすぎだろう。せめて腕を捻るだけにしておけば良いのに」


 そういう問題ではありません。


「だいたい女の子を待ち伏せして襲いかかるって時点で弱すぎだろう、そいつら」


「そうだよね。しかも二人がかりだし」


 そうそう。恥をかかされたと思ったのかもしれませんが、逆恨みで二人がかりで待ち伏せしている時点でカッコ悪すぎて恥の上ぬりです。


「投げられた三人のうち、もう一人はどうしたんだ?」


「そう言えば待ち伏せしてたことないね」


 どうやら残る一人はちょっとだけ恥というものを知っていたみたいです。


「だいたい強くてえらいってどういう事だ?殴って無理やり言いなりにさせるのは強くも偉くもないだろ。頭悪いな」


「確かに」


「次からはまともに相手にするな。無視してやれ」


 よしつぐにいちゃんに言われて納得したさくら姉ちゃん。


 それでも殴りかかられると反射的に投げてしまう日々が続きました。

 懲りずに待ち伏せをする二人がまた投げられてるのを見たあすかちゃんとななみちゃんが呆れきった様子でぼやきました。


「こうやって待ち伏せなんかしなければ負けることもないのに、懲りないよね」


「二人ともダサすぎ」


 呆れる女の子たちに、自分たちがかなりカッコ悪いことをしていたと悟った二人。

 自分ではモテるカッコいい男なのにさくら姉ちゃんのせいで邪魔されてると思っていたのが、自分たちの行動のせいでダサいと思われていたことにやっと気付いたようです。


「小三にもなって言われなきゃわからないって馬鹿だよね」


「本当にかっこ悪いよね」


 それ以来二人は待ち伏せをやめましたが、女子の評判が上方修正されるにはまだ相当時間がかかりそうです。


 


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