第32話共闘

「──お前、何を……」


「陛下からの命令です」


ゴリさんが顔色を悪くしながらキャリー様に問いかけようとしましたが、言い終える前に答えが返ってきました。


キャリー様の言葉を聞いたゴリさんは激しく舌打ちをした後「……あんのハゲが……」とボヤきました。

因みに陛下はハゲておりませんよ?多少薄くなっている程度です。


「今回の件は、隠密部隊私達だけでは情報が不十分な所があります。便利屋あなた達のバックにはシャーロット様がいるはず。それならば手を組んだ方が早いと、陛下からの通達です」


淡々と話すキャリー様を余所に、苛立ちを隠せないゴリさん。

ですが、キャリー様が仰る事にも一理あります。隠密部隊と言えどシャーロットさんには到底勝てません。

あの方は別格です。


「くそっ。陛下あいつ自分で纏めるの面倒くさくなったな」


えっ?そんな理由でこちらに振ってきたのですか?

一国の主が?


「──はぁ~……断るにしても陛下あいつとの契約がある手前断れんしな……」


ゴリさんが一人、ブツブツと何かと葛藤しております。

私達は黙って見てるしかありません。


と言うか、下手に声をかけると八つ当たりされそうなので皆さん黙っているだけです。


「ちっ!!仕方ない。今回の件は隠密部隊と手を組み動くことにする」


ゴリさんは憂鬱そうに答えを出し、その答えを聞いたキャリー様が歓喜しゴリさんに抱きつく。その光景を私達は生温い目で見ておりました。



◇◇◇



さて、隠密部隊と共に行動すると決まったので、ゴリさんがざっくりですが、こちらの掴んだ情報を提供し、逆にこちらが持っていない情報を提供して頂きました。

それによると、この間のアンデッド襲撃事件で本格的に騎士団も動き始めたと。

そしてファニーさんの父親、西の神父様にも話を聞きに行かれたようです。

先日、西の教会に続く道の空間の捻れを元に戻してもらったので、自由に行き来が出来るのようになったのは好機でしたね。

しかし、神父様から聞いた話は私達が聞いたものと変わりありませんでした。


そこで、キャリー様は東の神父の話も聞きに行かれたようです。


「あそこの神父は自分が狙われている事を知ってた。そこで、いち早くファニーの動向を知る為にジャックと言う男を見習い料理人として送り込んでいたようだ」


「ジャックさんが!?」


「おや?マリーちゃんはジャックと知り合いかい?」


急に私が声を上げたのでキャリー様が驚きました。


──知り合いも何も、一緒にジャガイモの皮剥きをした仲です。


なんと言うことでしょう。ジャックさんまでも教会に送り込まれた人でしたか……

まあ、それならばあの手際の悪さも納得できますか。


「以上が隠密部隊私達の掴んだ情報だ」


「どうです?」とゴリさんに褒めてもらいキャリー様が得げにしておりますが、ゴリさんは見て見ぬふりを貫いております。


キャリー様のお陰で今回の関係者が大分はっきりしてきましたね。

あとは敵の人数、能力、弱点を知りたいところですが、こればかりはどうしようもありません。


「引き続き私達はファニーを監視、動向を追う。隊長達は両教会の監視と町の見回りをお願いしたい」


騎士団も見回っているが、用心に越したことはない。とキャリー様の判断です。

操られている死人は綺麗な身体で還したいと思うのは皆さん同意見です。ですから、下手に剣を抜けません。


──となれば、見回りは武闘が得意な騎士に限られますね。


「それでは名残り惜しいが私は城へ戻らなければならない。──エル、お前は残って隊長達のお手伝いを」


「はいはい」


エルさんがキャリー様に手を振って応えました。

エルさんが残ると言う言葉に、ニルスさんが鋭い目でエルさんを睨んでおりますが、当のエルさんは全く気にする様子もなく私の肩に手を置き「宜しくね」と一言。


「……貴方、殿下の影では?」


「大丈夫。今回の件は、こっちを優先する様に言われてるから」


前に殿下が「エルには違う仕事をしてもらっている」と仰っていたのを思い出し、納得いたしました。

そうこうしている内に、キャリー様はゴリさんの首に手を回したかと思ったら「また会いに来ます」と伝えると頬に軽くキスをし、颯爽と城へと向かって行きました。

普通なら顔を赤める場面ですが、ゴリさんの顔は真っ青。


顔を赤めているのは、ジェムさんだけ。

他の皆さんは憐れみを通り越し、ご愁傷様と両手を合わせました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る