第13話フェンリル
ヤンさんとジェムさんは既にフェンリルと1対1で戦闘中。
私とクルトさんは残りの一頭を二人で相手する事になりました。
近づくとその大きさに圧巻です。
狼の何倍もあるのですから当然です。
フェンリルは私とクルトさんに気づくと、前足で攻撃して来ました。
ヒョイヒョイと避けながら、フェンリルの様子を伺います。
相変わらず唸りながら涎を垂らしていますが、どうも視点が合っていないように見えます。
考えを巡らそうとしても、フェンリルが考える隙を与えてくれません。
「中々のやんちゃ坊主ですね……嫌いではありませんが、少々大人しくしてもらえますか?」
フェンリルに問いかけますが、当然言葉など返ってくるわけありません。
その代わりに、前足、牙、尻尾での攻撃が激しくなりました。
「まったく、躾がなってへんな」
クルトさんは、文句を言いながら向かってきた牙を剣で受け止めています。
「同感ですね。──いい加減大人しくお座りしなさい!!」
ドゴッ!!
私はクルトさんに牙を向け、目を逸らしているフェンリルの頭上に蹴りを一撃入れ、地面に食い込ませました。
「ほぉ~。マリーちゃんやるやないの。……でも、それ、お座りちゃうで?」
クルトさんが何やら仰っておりますが、返事をしている暇はありません。
フェンリルはズボッとすぐに地面から頭を出すと、唸りながら私を睨みつけてきましたから。
「おや?まだやりますか?」
まあ、この程度で大人しくなるとは到底思っていませんけどね。
グガァァァァ!!
大きな口を開け、勢いよく私に飛びかかって来ました。
どうやら私を先に仕留めようと決断した様です。
しかし、簡単に私は倒せませんよ?
腰の剣を取り出し、大きな口を剣で受け止めました。
「これは躾が大変そうですね」
「マリーちゃん、一人でいけそうか?あっちでジェムがヤバそうなんやけど」
クルトさんが示す方を見ると、確かにヤバそうです。
ヤンさんはフェンリルと遊んでいるように見えますが、ジェムさんは大分傷だらけでお疲れの様子。
息がだいぶ上がり、もう動くのも精一杯って感じです。
「私は大丈夫なので、ジェムさんの加勢お願いします!!」
「了解」
私の返事を聞くと、すぐさまジェムさんの方へ掛けて行きました。
「……さてと、大分おいたが過ぎますね」
フェンリルは賢い魔物なので、力の差を見せれば大人しくなるはずです。
そう思いながら唸り声を上げているフェンリルと向き合っていると、ふと気が付きました。
──やはり焦点が合ってませんね。
どうもこのフェンリルは、正気を失っているような感じです。
──正気に戻すにはどうすれば……
まあ、単純に考えて頭に強い衝撃を与えるのが一番でしょうが、先程の衝撃で正気が戻らなかったと言うことは、まだ手ぬるいと言うことです。
「……荒療治と行きますか」
剣で向かってくる牙を受け止めつつ辺りを見渡します。
すると、ちょうど良い崖が目に留まりました。
私はそこまで全力で走り、フェンリルを呼び寄せました。
崖の直前でピタッと止まりフェンリルが来るのを待ち、全力でやってくるフェンリルをギリギリの距離まで縮めた所で、私は思いっきり飛び上がり崖の上へ。
当然フェンリルはそのまま崖に頭から衝突しましたが、すぐに頭を出し私を探しています。
この衝撃でも正気には戻らないのようです。
と、なると最後は……
「こちらですよ」
崖の上から呼ぶと、フェンリルはこちらを向き牙を向けてきます。
「さぁ、いい加減目を覚ましなさい!!」
ダッ!!と崖の上から助走を付け、渾身の力を込めフェンリルの頭を地面に叩きつけました。
もくもくと土埃が上がる中、フェンリルは舌を出し気を失ったようでした。
──やっと大人しくなりましたね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます