第8話ジャガイモ

今私は、何故か料理人見習いジャックさんとジャガイモの皮剥きをやらされております。


何故このような事態になったのかと言いますと、事の始まりは数分前……──

料理長のエリック様に呼ばれ調理場へ向かうと、大量のジャガイモの前にエリック様と一人の男性の姿がありました。


「マリー、急に呼び出してすまない。見ての通りジャガイモが大量にあってな……」


「す、すみません!!自分が注文量を間違えてしまって!!」


頭を抱えているエリック様の隣で、男性がペコペコと頭を下げています。


「こいつは最近入って来た見習いでな、ジャックと言う」


エリック様に紹介された男性は、紛れもなく調査対象者のジャックさんでした。


──この方がジャックさん……

エリック様が隣にいるからか、随分と弱々しい感じですね。


ファニーさんといいジャックさんといい、どちらも教会の者には到底見えません。

上手いこと作っているのでしょう。これは難題ですね。


「──そういう訳で、このジャガイモの山を片付けたいんだが、ジャック一人で皮剥きを頼んでいたら明日になってしまう。マリー、手伝ってくれないか?」


……──と、言う訳で今に至ります。

エリック様に頼まれたら断れませんので。


「すみません。自分のせいでこんな地味な仕事させてしまって……」


「いえ、侍女の仕事も割と地味な仕事ですので気にする必要ありません」


落ち込みながら謝罪してくるジャックさんにそう伝えました。

ジャガイモの皮を剥きながら、ジャックさんの様子を伺いますが、見習いにしては大分下手です。

私が三つ剥き終わる頃にようやく一つ剥き終わるのです。

しかも、形はガタガタ。


──まあ、煮たり潰したしたりするので形は問題ありませんが……


「手間取ってすみません。……こんなんでは、到底料理人にはなれませんよね……」


「ははっ」と愛想笑いを浮かべるジャックさんですが、そもそも何故料理人なんでしょうか。


「……本当は騎士になりたかったんですが、自分は臆病者でとても剣で人を斬れないので騎士の方々を食事の面から支えようと思い料理人の道に入ったのですが、いざやってみるとこの通りでして……」


ジャックさんは悔しそうにジャガイモを握りしめておりました。


――ふむ。これは困りました。

ジャックさんの話していることが本当の事の様に聞こえてきます。

私も大概単純という事ですね。


ですが最初から信用していては、この任務は務まりません。


「マリーさんは何故侍女に?」


ジャックさんに声を掛けられ「はっ」としました。


「すみません。少々考え事をしておりました。──私が侍女になった経緯は、親の借金返済の為です」


「へぇ。親孝行なんですね」


ジャックさんは笑顔で私に仰いました。


「いえ、親孝行ではありません。これは私の為です。安心して老後を送りたいが為に頑張っているのです」


「えっ!?そうなんですか?」


ジャックさんは大層驚いたような顔をしております。

これは、あの脳筋夫婦を知らない方の反応です。

私が孝行娘ではなくて失望させてしまったでしょうか?

……いえ、騙してまでいい顔をする必要はありません。


「……お前ら、口より手を動かしてくれるか?」


そんな他愛のない話をジャックさんと話していたら、後ろから腕組をしたエリック様が声を掛けてきました。

しかもなにやらご立腹のご様子。

ジャックさんも気が付いたようで、震えながら手を一生懸命動かしております。


「すみませんエリック様。夕食の準備までには間に合わせます」


「頼むぞ」と一言言われ他の仕込みへ向かう途中、キッとジャックさんを睨んで行きました。

ジャックさんはビクッと肩を震わせながらも、手を止めません。流石です。


「……なにやらエリック様はご立腹でしたね」


「……いや、あれは自分に牽制していたと思うんですが……」


エリック様に聞こえぬよう小声でジャックさんに伝えました。

青い顔をしながらジャックさんが何やらボソッと仰いましたが、聞き取れませんでした。


そして言うまでもなく、その日の夕食はジャガイモ料理でテーブルが埋め尽くされておりました。



本日のお給金……ジャガイモのケーキ(皮剥きの報酬)


借金返済まで残り5億6千730万2100ピール

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