第20話執事の正体

私は屋敷中を探し歩きましたが、リチャードさんの姿が見当たりません。


──おかしいですね……この時間は屋敷にいるはずなんですが。


しかし、何度屋敷を往復してもおりません。


そんな時、の存在を思い出しました。


──ここまで探していないとなると、残る場所は小屋あそこですかね。


すぐさま膝を返し屋敷の裏に回ると、相変わらず人がいるとは思えない小屋がポツンと建っています。


気配を消して小屋に近づき、割れた窓から中の様子を伺いました。


すると……──いました。

この間の侍女も一緒です。


「──このままでは、まずい。レニの方は?」


「私の方はダメ。全く掴めない」


二人は何やら神妙な面持ちで話をしておりますが、何の話なのか分かりません。


「──……奴らの狙いは、私だ。私が此処を去れば片がつく……」


「……私は嫌よ……折角、居場所が見つかったのに……」


レニと呼ばれる侍女の方が泣きそうになりながら俯いております。


私達がリチャードさんを疑っているのがバレたのでしょうか?


「レニは此処に残りなさい。いつまでも私といると、レニにも危険が及ぶ」


リチャードさんがレニさんの肩に手を置き、優しく諭すように仰っております。

しかし、その手を払い除け「嫌よ!!」とレニさんが叫びました。


「私はどんなに危険が付き纏っても、離れたくない!!」


そう言うなり、レニさんはリチャードさんに抱きつきました。


この場にルイスさんが居たらさぞ大喜びの場面でありましょう。


リチャードさんは抱きついたレニさんを払い除ける様子もなく、優しく頭を撫でていました。


「……レニの為なんだ。……いや、私の為かもな。私の為に、レニの命が危ぶまれるなんて耐えられないんだ」


レニさんはリチャードさんの腕の中で泣きじゃくっています。


リチャードさんは困惑の表情をしながらも、レニさんを抱きしめております。


──やはり、このお二人は恋仲……


「絶対嫌よ!!絶対離れないから!!私も連れてって!!ねぇ、!!」


──っっっ!!!!???


ガンッ!!!


──しまった!!!


あまりの衝撃的な事実に思わず立ち上がった瞬間、足元にあったバケツを蹴り飛ばしてしまいました。

その音に気づいたリチャードさんが素早く外に出て来ました。


「──……おや、これはこれは……こんな所でどうしました?」


リチャードさんは何事も無かったように、笑顔で私に話しかけてきました。

対してレニさんは、私を鋭い目つきで睨んでおります。


──私とした事が、ルイスさんと同じミスを……


もうこうなってしまっては、誤魔化しようがありません。

私は観念して一息つき、ゆっくりリチャードさんと向き合いました。


「――……盗み聞きしたのは、申し訳ありません。しかし、これが私の仕事ですのでご了承下さい」


私はそう言いながら、深々と頭を下げました。


すると……


「……黙っているのもここまでですね……」


と、リチャードさんがポツリと仰いました。


「は!?本気!?こんなどこの馬の骨かも分からない女に話すの!?」


リチャードさんの言葉を聞いたレニさんが声を荒上げました。


確かに、どこの馬の骨か分からない女ですけど、仮にも当主に招待された人間ですよ?

リチャードさんの様に執事クラスの方なら許されるでしょうが、ただの侍女がお客様にその口ぶりはアウトです。


その証拠にリチャードさんがキッとレニさんを睨みつけ黙らせました。


「すみません。教育がなっていませんで……」


はぁーと溜息を吐きながら、自分の教育不足だと謝罪されました。


まぁ、レニさんの教育は今後頑張っていただくという事で……

それよりも私は、貴方がたの事を知りたいのですが?

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