第2話準備

あれから私はすぐに城へと戻り、長期休暇を申請する為テレザ様の元を訪れました。

理由は、家族旅行と記入しました。


──便利屋の皆さんは家族同然なので、嘘は付いてません。


申請理由が良かったのか、問題なく申請は通りました。


そこまでは問題なく事が済んだのですが、何処からか情報を得た殿下に捕まりました。


「……貴方、本当に家族旅行なの?」


中々勘が鋭いですねぇ。


殿下はジロッと机に肘を付きながら、尋問して来ました。

最近、殿下は私に対しての不信感が大幅に増しました。

事の始まりは、奴隷商人を城の門に捨てた事から始まりました。


──分かりやすく立て札を付けのが不味かったのですね……


立て札を書いたのは私です。

その立て札を見た殿下が「この筆跡、マリーじゃないの?」と気づき、散々責められました。


その都度「筆跡だけで私だと判断するのは、些か愚劣じゃありませんか?」と、誤魔化してはいたんですがね。


──全く、侍女の筆跡まで覚えているとは思いませんでしたよ……


「………………はい。たまにはゴリさん孝行もしておかねばと思い立ちまして」


「その間は何!?即答出来ないの!?」


殿下は、ガタンッと勢いよく椅子から立ち上がりながら、仰いました。


「──……殿下。人間、誰しも突発的に何を成し遂げたいと思うことはある筈です。私は今、まさにその衝動に駆られているのです。殿下は親孝行したいと思った事がないのですか?それはいけませんよ。陛下がどれだけ殿下の事を考えていると思っているのです?殿下だけではありません。ライナー様の事もあります。そのせいで最近、陛下の髪が三センチ後退しています。親不孝な息子達のせいでお可哀想に……」


私が一気に捲し立てると、殿下は一瞬たじろぎましたがすぐに持ち直し「なんであんたが父上の髪事情を知ってんのよ……」と大きな溜息を吐きながら仰っておりました。


──そこは当然企業秘密です。


「……まあ、貴方の言い分は分かったわ。そこまで言うのなら、本当の様ね」


殿下はどうやら、追求を諦めてくた様です。


──勝利です。


私は殿下にバレない様、小さくガッツポーズをしました。


「──……でも、旅先で絶対揉め事は起こさないで。いい事、これだけは絶対よ。約束して頂戴」


すみません。それは約束出来かねますね。

何故なら、敵地に行くのですから……


──まあ、そんな事言えませんけど。


「………………善処します………………」


「だから、その間は何よ!?貴方、何か隠しているの!?──あっ、ちょっと!!」


殿下がギャーギャー煩くなったので「失礼します」と一礼し、殿下の元を後にしました。


そして、用意しておいた旅行鞄を手に持ち、便利屋の皆さんが待つ『マム』へと戻って参りました。


便利屋のドアを開けると、皆さんまだ支度中のご様子でした。


「なあ、酒はどのぐらい必要だ?」


「…………」


ゴリさんとヤンさんは、酒瓶と酒樽を睨めこっこしながら幾つ運ぶか相談中らしいです。


そもそも、この人数で行ったら幾つ持って行っても、グロッサ国まで持ちませんよ?


「シモーネさん!?その荷物、何!?そんなにいる!?」


「うっさいわねぇ。女の子は荷物が多いのよ」


「……女の子って、歳じゃ……」


「はあ!?」


「「すみません!!!」」


ルイスさん、ジェムさん、シモーネさんは、何やら楽しそうです。


そんな方達に目もくれず、ティムさんが隅っこで何やらやっています。

そぉ-と近づき覗いて見ると、沢山の火薬と弾丸。


──ふむ。今の内に生産中ですか。


ティムさんはこう言う物を作るのが得意なんです。

見た目が子供の様で馬鹿にされますが、実は頭の良い方なんですよ。


まだ皆さんの支度が終わりそうにないので、私も剣を取り出し手入れをする事にしました。

全員が、無事で戻ってこれる事を祈りながら……

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