第65話社交界のお約束
何ヶ国目かのお偉い方に挨拶を終えた私は、いい加減疲れてしまって、休憩させてもらっています。
殿下は休みなく、他国との交流を深めております。
「──あら、次期王妃様ではないですか」
殿下の元を離れた途端、私の周りにはご令嬢様が群がり始め「次期王妃様は何処のご令嬢ですの?」「ずっとお顔を隠しておりますが、一度拝見させて頂けませんこと?」「あら、そのドレスはどちら物ですか?私は──」など、人の粗探しですか……
これだから、社交界と言う場は嫌いなのです。
「──お待ちなさい」
その中で中心核の方でしょうか?お一人の方が私の前に歩み寄って来ました。
「この者たちの無礼、失礼致しました。
まずいですね。名を名乗られたら名乗り返すのが礼儀。
しかし、今の私は何処の者でもない名の者。
下手に偽名を名乗れば調べられるのが関の山です。
私は扇で口元を隠したまま、応えることもせず黙っていると、取り巻きの方々が口を挟み始めました。
「ご自分のお名前も言えないんですの?」「こんな方が次期王妃様では不安ですわねぇ」などと言いたい放題です。
当のカイラ様も「皆様、そんな事言ってはいけません。きっと立派なご令嬢よ」とクスクスしながら私の返事を待っています。
進退両難です……
「貴方達、何しているの?」
ふと、取り巻きの方々の後ろから声がかかりました。
取り巻きの方々の中から現れたのは、私とお揃いの仮面を着けた方……カリンです。
カリンはすぐに私を背に庇うと、カイラ様に向き合いました。
「──貴方、この方が殿下の婚約者様だとご存知なの?随分無礼な言葉が聞こえたけど?」
「あら、私は次期王妃様と仲良くしたかっただけですわよ?──そんな貴方こそ、どこの誰よ。私に口出しとは随分と無礼じゃないこと?」
カイラ様は強気に仰ってますが、すぐにその言葉を後悔しますから、これ以上下手な事は言わない方が宜しいですよ?
その証拠に、カリンの口元は既に笑いを堪えてます。
「これはこれは、ご紹介が遅れて申し訳ありません。私、カリン・フレストと申します。──あぁ、父はこの国の外交官を勤めております。──……で、そちらは?」
カリンがとても楽しそうに名乗ると、瞬時に皆様の顔色が変わりました。
それもそのはずです。伯爵家と公爵家。この縦社会でどちらが権力を持っているかなど明白。
「す、すみません。まさか、フレスト公爵家のカリン様だとは露知らず……」
カイラ様とその取り巻きの方々は真っ青な顔をしながら、カリンに向けて頭を下げました。
「そんな事はどうでもいいの。そちらはどちらのご令嬢か聞いているの?散々この方を馬鹿にしといて、言えないってことは無いわよね?」
カリンの一言にカイラ様は益々青ざめていきます。
……ここで名を出せば、自分が次期王妃を馬鹿にしていたことがフレスト公爵家にバレてしまいます。
フレスト公爵家を敵に回したら、伯爵家如きすぐに潰されてしまいます。
私はこれ以上事を荒立てたるのは本望ではありませんので、カリンのスカートの裾を引っ張り小声で「その辺で……」と伝えました。
カリンは不服そうでしたが「この方に御用の方は私、フレスト公爵家のカリンが御用をお聞きしますわ」と伝えると、カイラ様達は「申し訳ありません!!」と、一礼してから慌ててその場を去って行きました。
「カリン、ありがとうございました」
「いいのよ。こちらこそ、遅れてごめんなさいね」
カリンにお礼を伝えると、カリンは逆に謝罪の言葉を口にしてきました。
カリンが謝罪する必要など一片もありませんのに。
「──それより、大事な婚約者をこんな所に置き去りにしてあいつは何してんのよ!?」
「殿下は、他国の方々とお話中です。私は少し疲れてしまったので、ここで休んでいたら先程の方々に囲まれしまって……」
経緯を簡単に伝えると「なるほどね……」とカリンは納得したようです。
「じゃあ、今から私と一緒にいましょ。煩い小蠅も、私と一緒ならすぐ追っ払えるからね」
カリンはニコッと私に手を差し伸べて来ました。
当然、私はその手を握り返します。
バリーーーン!!!
握り返した瞬間、会場のシャンデリアが割られ辺りは暗闇に包まれました。
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