第20話ワーム

突然ですが、私は今ヤンさん、ジェムさんと共に森に来ております。


そして、私達の目の前には大量のワーム。

ワームとは、簡単に言えば大きな芋虫ですね。

一匹だけなら、まあ愛くるしいと言えますが、これだけの量が集まってウネウネしていると気持ち悪いです。


さて、何故私とヤンさんが森に来ているのかと言いますと、遡ること数時間前……


「おいっ!!マリー、ヤン!!ちょっと下見に行ってきてくれ!!」


「何処にです?」


剣の手入れをしている所に、ゴリさんからの指令が下りました。


「ああ、どうやらワームが大量増殖しているらしくてな」


「……ワームですか」


ワームは繭を作り、その繭は希少で高値が付きます。

不自然な大量増殖、これは何者かの仕業だと考えているのでしょう。


繭目的だけなら、まだいいんですがね。

ワームは見た目は芋虫ですが、攻撃力はこの間の大蜘蛛に匹敵します。

それが、何匹もとなると少々骨が折れます。


「俺も一緒に連れてってください!!」


名乗りを上げたのはジェムさんです。


ジェムさんはあの日以来、ヤンさんにベッタリで離れません。

ヤンさんもそれを受け入れているんですから、凄いです。


私なら鬱陶しくて一日持ちません。


「……………」


「『そうか、じゃあ一緒に行こう』と、仰っております」


「よし、じゃあヤン、ジェム、通訳のマリー行ってこい!!」


……サラッと通訳と言いましたよね。




──とまあ、こんな感じで今に至ります。


「うえ、気持ち悪いなぁ」


ジェムさんが大量のワームを見て、思わず本音を漏らしていました。


「…………」


「『あれで、食うと割と美味いぞ』と、仰っております」


「あれ、食えるの!?」


いや、私も初耳なんですが……

あれを食べる強者がいたんですね。


「…………」


「『冗談だ』らしいです」


そして、ヤンさんがフッと笑いました。


ヤンさんが、冗談を!?しかも、微笑みながら!?

これは、凄い事ですよ!!


ヤンさんとの付き合いはそれなりにありますですが、一度も冗談など聞いた事ありません。

ヤンさんが笑うとこなど数年に一度です!!

これはいい事ありそうですね。


しかし、ジェムさんが来てからヤンさんの雰囲気が変わったのも確かです。

なんと言うか、穏やかになった?と言うんでしょうか。

前は常に気を張っている感じでしたからね。

ジェムさんを見ているヤンさんは、飼い主の様ですからね。


「うわぁぁぁぁぁ!!!やめてくれ!!」


「いやぁぁぁぁ!!!」


森の中に悲鳴が響き渡りました。

悲鳴のした方を見ると、今まさに数人の男性、女性がワームに食べられようといている所でした。


「ヤンさん!!!」


「…………」


「通訳している暇はありません!!ジェムさんは勘で動いてください!!」


「勘!?」


すぐさま救出に向かいます。


「大丈夫ですか?私に捕まってください」


とりあえず二人の女性を抱え、ワームの群から助け出します。

離れた場所まで来たら女性を下ろし、再びワームの元へ。


「マリー!!こいつ頼む!!足食われた!!」


ジェムさんが呼ぶ方へ行くと、男性の方の片足がありません。

これは、早急に止血しなければ命が危ないです。


こうしてる間にも、ワームの攻撃は続きます。


「マリー!!後!!」


ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!


ワームが大きな口を開き、牙を剥けてきました。

芋虫の分際で人間に牙を剥けるとはいい度胸です。


ブシュッ!!!


「──ああ、汚れてしまいました。折角手入れしたばかりでしたのに」


先程手入れしたばかりの剣で、ワームの首を切り落しました。

その際、ワームの体液がべっとり剣に付着してしまいました。


……帰ったら磨き直しです。


「……この状況で、剣の汚れを気にするのはお前ぐらいだぞ?」


ジェムさんがそんな事を言っておりますが、余所見してる暇はありませんよ?


「ジェムさん、頭上にご注意下さい。私はこの方の手当を優先致します」


「頭上?……うわっ!!!分かった!!ここは俺と兄貴に任せろ!!!」


ジェムさんは素早くワームの攻撃を剣で受け、やり返しました。

ふむ。腕が上がってきましたね。これもヤンさんの指導のおかげでしょう。


さて、私はこの方を向こうへ……


先程、女性の方々を避難させた場所まで男性を担いで行きます。


「マシュー!?」


男性を見るなり、一人の女性が駆けつけてきました。


「ああ、マシュー、なんて事……」


男性は出血が多く、息も絶え絶え。意識は……ありません。

凄く、危ない状態です。


「離れて下さい!!止血します!!」


女性を退かせ、足の付け根を紐でキツく縛り止血します。


この方はすぐにでも病院に連れていかなければ、間に合いません。

しかし、ここを離れることも出来ません。


万事休すとはこの事ですか……

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