第19話侍女仲間

散々な目にあいました……


あれから私は部屋を片付けた後、数時間テレザ様のお説教を聞き、罰としてタダで、でじゃがいもの皮むきを延々とやらされたんですよ!!


タダ働きとは私にとってどんな刑罰よりも重いのです。

流石はテレザ様。私が一番堪える罰を知っております。


そんな私の努力の証、じゃがいものポタージュが今目の前にあります。

気がつけば夕暮れでしたので、そのまま食堂へと来たのです。


──じゃがいもが忌まわしいです……


「マリー、そんな顔して何食べてるよ?」


「ユタさんに、ローゼさんですか」


ユタさんと、ローゼさんは侍女の中でも特に仲良くさせて頂いている方達です。


このお二人方だけしたね。没落して侍女としてやって来たのに、最初から普通に話してくれたのは……


他の方達は何処か避けていましたからね。

まあ、今は皆さん普通に話してくれますが。


「あら、じゃがいものポタージュ?料理長のポタージュは絶品でしょ?」


「ユタ好きだもんね。料理長のポタージュ」


「そう言う、ローゼだって毎度もおかわりするじゃない!!」


いや、美味しいですよ。美味しいんですけど、その行程にどれ程の時間を私が費やしたと思ってますか?


この作業を『マム』でやれば1800ピールはくだらないんですよ!?


それを、タダで……


「あ、あら?マリー?なんでそんな涙目になってるの?」


「……いえ、少々感傷に浸っておりました」


これもそれも、エルさんのせいです。


──エルさん、許すまじです。


「えっ?今度は怒ってない?」


「情緒不安定?」


この日、ユタさんと、ローゼさんの話はまったく耳に入ってきませんでした。



◇◇◇



さて、本日も晴天です。洗濯物がよく乾きそうですね。


いつものように、籠いっぱいの洗濯物を持って洗い場へと向かっている最中です。


「やあ、マリー!!」


背後から宿敵エルさんの声がしまたが、当然知らぬ振りです。


「ねぇ、ちょっと、聞こえてるんでしょ?」


返事がないと分かると、懲りずに私の横に移動して顔を覗いて来ましたが、見えず聞こえずを、続行です。


「ねぇ、まだこの間の事怒ってるの?謝ったじゃない」


最終的に私の前へ出て、通せん坊ですか?


「はぁ~、何ですか?」


仕方ありませんから、要件だけ聞きましょう。

……速やかにお願いします。


「やっと口聞いてくれた。それ洗い場まで持ってくの?手伝うよ?」


「結構です」


これは私の仕事です。貴方は貴方の仕事をして下さい。


そもそも、影の方がこんな頻繁に顔を出してはいけません。

影の意味がなくなりますが?


「そんな僕の事嫌わないでよ~。僕はマリーと仲良くしたいだけなのに」


「……間に合っています」


そんなくだらない話をする為に引き止めたんですか?


──これ以上、この方に付き合ってる暇はありません。


横を通り過ぎようとしたら、エルさんに腕を捕まれ動けなくなりました。


「……離してください」


「ねぇ、前に言ったこと覚えてる?」


「……何の事でしょう?」


「『殿下をやめて僕にしなよ』って、あれ、本気だから」


ニコッと微笑みながら私の顔を見つめてますが、そんな事より手を早く離してください。


「自慢じゃないけど、僕欲しいと思ったものはどんな手を使っても手に入れるから。覚悟しといてね?」


チュッ


エルさんは私の頬にキスをして、サッと姿を消しました。

すぐさま蹴りを入れましたが、当たりませんでした……


──やられましたね。


洗濯物の中からタオルを一枚出し、頬を拭いたのは言うまでもありません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る