第15話偽婚約者

私は殿下に用意されたドレスに身を包み、装飾品を身につけ、いざ戦場へ向かう所です。


久しぶりのドレスにヒールの靴は大変動きにくいです。

……それにしても、正装した殿下はやはり王子様でしたね。

とても煌びやかで見目麗しいですね。


「なぁに?人の顔をジロジロ見て。やだ!?もしかして見とれちゃった?」


前言撤回です。喋らなければ王子様でした。


「……馬子にも衣装と言う言葉を思い出したんですよ」


「何それ!?酷いわ!!」


私は不本意ですが、殿下にエスコートされ本物の婚約者様の元へと向かっております。


果たして、どのような婚約者様なのでしょう。

殿下に聞いても、何も答えてくれないので相手の情報が分からないのです。


そうこうしているうちに、着きました。


コンコン


「失礼します。殿下がお見えになりました」


護衛の騎士の方がドアを開けてくれました。

一礼をし部屋の中へ入ると、おりました。婚約者様が。

見た目は綺麗と言うより、可愛らしい方ですね。


「お久しぶりです。ラインハルト様。……そちらの方は?」


「久しぶりねカリン。こっちはマリアンネ・オスヴェルダ。私の婚約者よ」


「……お初にお目にかかります。マリアンネ・オスヴェルダと申します」


挨拶をするとカリン様は大変驚いた様で目を見開いております。


そりゃそうですよね。婚約者として招かれていたのに、殿下が逃亡。

散々待たされた挙句に、婚約者を連れて登場。


──私なら、慰謝料請求事案です。


「……その方が、ラインハルト様の婚約者様?本当ですの?」


「ええ、わざわざ来てもらって悪いけど、そう言う事なの。ごめんなさいねぇ」


すると、カリン様が俯き肩を震わせております。

……お可哀想に、泣いておられるのでしょう。

大丈夫です。後でその涙分ちゃんと仕返しておきます。


殿下が何故カリン様との婚約を嫌がるのか分かりませんね。

とても可憐な方じゃないですか。

選り好みしていたら、その内枯れてしまいますよ?


「ふふふっ……あはははは!!!あ~~良かった!!あんたみたいな男女と結婚なんて、こっちから願い下げよ!!」


大変です!!カリン様がご乱心です!!


「……やっと本性現したわね」


カリン様はソファにドカッと座ると足を組み、先程までの可憐さが微塵も無くなりました。


「仕方ないでしょ?お父様に言われて来てるんですもの。──まったく、やっと婚約者が見つかったと思えば、まさかあんただったとはね」


あの、私は蚊帳の外で何がなんやらなので、そろそろ種明かしをして頂けませんかね?


「マリアンネ。このカリンはね、父の親友フルスト公爵の娘なの。小さい頃からの幼なじみよ」


私が固まっているのを見て、殿下が話し始めてくれました。


「そうなの。お父様達たら、私達双方に婚約者がいないことをいい事に、勝手に話を進めたらしいのよ」


なるほど、フルスト公爵様のご令嬢でしたか。

フルスト公爵様と言えば、外交官を務めておりますね。

時折、城の中で挨拶程度は交わしますが、とてもお優しく優秀な方です。


「だけど、貴方この男女の何処が良かったの?いい所なんて顔だけじゃない」


急にカリン様に問われました。


いえ、雇われ婚約者です。敢えて言うなら、羽振りが良いところですね。


「もお、野暮な事聞かないでちょうだい。私の全てに決まってるじゃない」


「……いえ、私は──」


言い返そうとしたら、殿下に口を抑えられました。


「……余計なこと言ったら、お給金2割減額よ!!」


耳元でそんな事を言われたら、黙るしかありません。


「あはははは!!婚約者と言うのは本当の様ね。いいわ、お父様にはこの話は破談になったことを伝えておくわ」


「ええ、そうして貰えると助かるわ。でも、マリアンネの事はまだ黙っててちょうだい。時期を見て私から陛下に話をするから」


「分かったわ。その代わり、いい男がいたら私にすぐ紹介してちょうだい!!」


目の前に超優良物件がありますが?

殿下以上の殿方を探すのは骨が折れると思いますが……


「えっと、貴方。マリーと呼んでもいいかしら?」


「ええ、勿論です」


「それじゃ、私の事もカリンと呼んでちょうだい」


流石にそれは無理です。今の私は平民ですので。


「ふふ。平民でも私は気にしないわよ。マリーとは仲良くしたいのよ」


やはり私の事を知っていましたか。

それでも仲良くしたいと言ってくれるとは……。この方は女神様でしょうか。

令嬢とは我儘、放漫な方ばかりだと思っていましたが、このような方もいるのですね。


「……分かりました。では、カリン宜しくお願いします」


「口調が硬いけど、まあ、いいわ。こちらこそ宜しくね」


こうして、人生初のお友達と言うものが出来ました。



本日の報酬……殿下の婚約者役(月給×6)72万ピール


借金返済まで残り5億8千108万7100ピール


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