第4話 王都炎上、その後【1/2】または「戦乱の時代が始まる予兆」
王都が炎上を始める少し前。
ルーマシア国王直属の特別編成隊、
制空権を確保しつづけ、空の安全を守ることは国防の要である。
日課ともなると、そして毎日毎日何事も起こらないと、さすがにダレてしまうようだが。
「ヒマっスねぇ~」
その声は、
「そう言うな。“やってる感”が大事なこともあるんだよ」
苦笑交じりで、たしなめるような物言いだ。
言葉とは裏腹に、彼、レオスの背筋は伸び、目は緊張からか鋭い光を放っている。
本音として、もはや大陸最強の航空戦力をもつ王国に、空から攻め入る敵はいないだろう、と理解している。
王国が抱える航空戦力は、なにも
緊張感に欠けるのは大いに問題だが、毎日毎日、そんなに本腰を入れて警備する必要はない、と感じてはいる。
しかしそれはそれとして、レオスは「本気で任務に挑まなければ気が済まない」という気質の人だった。
彼が騎乗する飛竜は、ほかの隊員とは異なっている。というか、見た目だけで分かるのだが、ワイバーンではないのだ。
ファイアドレイクよりも力強く、ファイアドラゴンにも似ているが、もう少し小柄だろう。
彼は、大司祭の息がかかっていない、国王付きの『竜の勇者』だった。
その能力は、『
「もうちょっと力を抜いたらどうですか、隊長?」
声の主も、国王付きの『竜の勇者』。
彼はホウセン(鳳扇)という名で、
彼は竜の翼を生やしており、自前の翼で飛行していた。
風魔法も得意だ。
実は竜族関連の風魔法も使用できるが、それはちょっとした秘密。
「だとしても、チュルク。キミはゆるみ過ぎ」
「そんなだから、司祭連中に
先ほどの、ヒマだなんだと文句を言っていた青年はチュルクと言うらしい。
事実として、
ワイバーンになつかれ、なおかつ心を通わせられるか。
心を通わせたうえで、思いのままに操れるか。
人間として、個人的な戦闘能力は十分か。
そういった、最低限の条件をクリアできる人材は、極めて少数なのだ。
必然的に、最低限の条件をクリアしている人材を集め、騎士団の体裁を整えるだけで精一杯。
騎士団として恥ずかしくない人数はそろっているが、騎士として恥ずかしい人材は多い。
それが、
実態は、華々しく見栄えがいいお飾り部隊を使って、軍事パレードなどで他国に示威することが目的だ。
竜のように見える騎獣である、という点も重要なポイントである。
そしてその裏の意図は、「お飾り部隊」のように思わせておきながら、『竜の勇者』を何名か国王の手元に置いておくことにあった。
それゆえ、真実を知る大司祭などは
自分の手元の『竜の勇者』の牽制と自身の権勢が、霞んでしまうためである。
「だいたいチュルク、あなたの勤務態度は不真面目すぎます。司祭たちに良い口実を与えるようなものですよ」
いつもの小言がはじまった、と、チュルクは
そのとき。
赤い閃光。
炎。
そしてしばらく遅れて、爆発音。
ユウマとウダイオス、そしてグルマジア帝国の特務隊と竜牙兵による王都破壊工作が始まったのだ。
「何が起きている!?」
レオス以下、隊員たちは動揺を隠せない。
唯一冷静なのは、ホウセンだった。
「(確かに、我々王国を攻めるなら空からではなく陸から。だが、この規模は一体?)」
その瞬間、ホウセンの背筋を薄ら寒い
殺される! だが、誰に? 何に?
気づくよりも早く、ホウセンは声を発していた。
「みなさん、避けてください!!」
隊員たちも何かを察し、道を開ける。
より正確には、衝撃波に巻き込まれないように位置取りを変えた。
直後、部隊から少し離れた場所を恐ろしい速度で通り過ぎる者があった。
者。そう、者だ。少なくとも、人のようなシルエットだった。
ホウセンと同じように、竜の翼が生えた人物。
「まさか、あれが……大司祭の新しい『竜の勇者』……なのか?」
レオスの口から、感嘆とも驚愕ともとれる言葉が漏れた。
その者は
「(音の壁を超えるか超えないかのギリギリの速度。おそらく、超える力はある。だが、あえて超えないのだ。)」
「(音の壁と衝撃波を利用して、移動しながら攻撃をも仕掛けるつもりか。……やる!!)」
ホウセンは、自分と同じ竜の翼をもつ別の勇者の存在に、少なからず危機感を覚えていた。
少なくとも、自分にはそんな芸当はできない。
竜族魔法を利用して、風魔法を強化すれば、あるいは……。
あんな飛び方は、考えもしなかった。
「全隊、傾聴! 勅命だ!」
地上からの連絡によると、王の命令で今後の方針が決まったらしい。
レオスが強い口調で隊に命令を下す。
「王都が何者かの襲撃を受けている。王国軍は、まだ動けない」
「今、最速で動けるのは、おそらく我々、
「各隊、班ごとに分かれて命令を遂行せよ。全隊の
「班長は、地上からの
訓練通り、そして何度か戦場でも実践された動きだ。
ここまでを一息で言い放つと、レオスは少し雰囲気を変えた。
命令口調の堅いものではない。いつもどおりの、“隊員への理解はあるが、生真面目な隊長”としての声だ。
「王国民の命運が我々に掛かっている。死力を尽くして対処してくれ」
「だが、くれぐれも死ぬな」
「以上だ。行動開始!」
ともすれば、優しさがにじむような、慈しむような雰囲気すら感じさせる口調。
ただ聞いただけならば、先ほどの命令のほうが重苦しい印象を受けたはずだ。
だが、王国と隊員を想っての言葉からのほうが、より大きな重みと決意が伝わってくる。
隊員たちもそれを実感していた。
先ほどの、大司祭の手の者である『竜の勇者』が着地した地点では、すでに炎の勢いが弱まり、侵略軍が倒され始めている。
自分たちも、一刻も早く事態の収束に動き出さなければ。
そんな焦燥がレオスを襲っていた。
そしてホウセンは、これまでにないタイプのゲリラ的侵略行為にザワつかずにはいられなかった。
何か、大きなうねりのようなものが起き始めている。
王国はそれに巻き込まれたか、重要な位置にいるのかもしれない。
あるいはもしかしたら、うねりの中心は、自分たち『竜の勇者』なのではないか。
そんな疑念を抱きながら、王都の担当区画へと向かった。
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