エピローグ・澄郷町にて(なしくず死、蘇るゾンビたち)①

 蚊に刺されると痒くなるんだ。

 当たり前だって笑われるかもしれないけど、いま、あの痒みをよく思い出してみてほしい。

 狂おしいほどの皮膚の疼き。血が出るほどに掻き毟っても、おさまらないどころか痒みが膨れ上がる。「かゆいかゆいかゆい」と脳が支配され、鳥肌が立ち、耳の奥には蚊の羽ばたく音が響き続ける。モスキート音。

 さぞやとんでもない毒液でも注入されているのかと思いきや、違うらしい。

 刺されると痒くなるのは、蚊が血を吸う際、麻酔のために唾液を注入するからだそうだ。

 つまり、刺されただけ、血を吸われただけでは痒みはない。

 あぁ、どうしてそんな余計なことをする?

 人間に気付かれないように血を吸うため?

 普通はそう思うだろう。

 でも、は――ルダは違うと断定した。

 蚊の心情を代弁するのだ。

 心があると思うと、蚊を殺すことも躊躇われてしまう。

 。血の味しか知らずに死んでいく。せめてキャラメル味の血液でも、吸わせてあげられたらいいのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る