☆勇気の翼をプレゼント
すどう零
第1話 定時制高校生になった聖香
私、聖香は定時制高校に通う、十七歳の苦学生?なんていうとカッコいいけど、定時制っていろんな年代の人がいて面白いし、女の子同志のグループ交際で無理に合わせることもないし、追試も二回以上あるし、まあ昼間に働いている私にとっては、過ごしやすい環境です。
おじさんもヤンキーっぽい人もいるし、バラエティーに富んでます。
こう見えても、昼間は有名中華料理店でホールと皿洗いとレジを担当してるんだよ。
でも、一か月更新の契約社員だから、いつどうなるかわからない不安はあるけど、やるっきゃない。
今を生きなきゃ。明日は永遠に見えてこないもの。
高校に入ってから、ちょっぴり変わってきたんだ。
というのも、ママに初めて聞かされたけど、実は私、聖香は日本人じゃなくて、在日韓国人なんだ。と言われてもこの頃、増加の一方にあるけどね。
実は私も、つい二か月まで全日制の商業高校に通ってたんだ。
地元で二番目のレベルの商業高校だった。
でも、親父が事業で失敗して以来、私も運命が変わっちゃった。
親父は建築会社を経営してたけど、サラ金から借りて強面の取り立て屋が脅しまがいの怒鳴り声のおかげで、私は拒食症になっちゃった。
おまけに、親父は騙されて保証人になった挙句、行方不明になっちゃった。
ママは、最初は泣いてたけど、いつまでも泣いてばかりいられないというので、深夜はファミレスの皿洗いのパートをやってるの。
昼間より深夜の方が、時給がいいから。
もともと私は、人見知りが強くて自分から積極的にグループの輪に入るなんて度胸がなくて。
中学のときも親友はいたけど、グループ交際なんてしたこともなくて、クラスメートとは自然に接するくらいだったな。
かといって、特にいじめにあうこともなかった。
あっ、話が脇道にそれちゃった。軌道修正しなきゃ。
だって、私が韓国についての知識といえば、日本の植民地だった過去があったというくらい。でもそのとき、日本人に日本語を教えてもらい、韓国の奴隷制度から解放され、命拾いしたという話は、読んだことはある。
今は、一昔前の韓流ブームも落ち着いたが、私は韓国アイドルよりも関ジャニが好きだったし、友達に韓国人は何人かいるが、私の友人の韓国人は勉強家の優等生が多い。
韓国は学歴社会であり、学歴によって一生が決められるという。
たとえば中卒の仕事は焼き鳥の串刺しや肉体労働、高校卒業はサラリーマン、大学卒業は博士などのインテリ、まあ日本にもそういう部分はあるけどね。
私の名前は岩城聖香、でもそれは通名であって、本名は李 聖香というらしい。
苗字は韓国名、名前は日本名というわけか。
芸能人はそういう人が多いというのは、聞いたことがある。
特に演歌の大御所は、そういう人が多いという。
まあ、現在はアンミカのようにカミングアウトしている人も多いし、巷には韓国料理店も多いし、繁華街へ行くとそういう人が闊歩してるし、もう時代はどんどん変わりつつある。
大阪のある町は、外国町と言われているくらいである。
昔は差別撤廃を目的とする社会運動もあったらしいが、現在はなんと介護施設でも、社会運動をしている人は採用禁止というケースも多い。
しかし私は女性である限り、男女差別から逃れることはできないが、半世紀前に流行ったウーマンリブ運動などもはや死語である。
差別ってなんだろうなー多分、被差別者から傷つけられた相手が、偏見を抱くことから始まるんじゃないかな。
これは聞いた話だけど、ある女性が黒人三人に集団暴行を受けた。当人にすれば一生忘れられない心の傷だろう。
しかし暴行したのは、黒人のなかでもわずか三人のみであるが、被害者の立場になると、黒人イコール暴行魔といった偏見を抱くようになってしまう。
実際、昔は黒人は白人の奴隷だったし、今でも差別はあるが、黒人のなかには立派な人や人格者もいるし、オバマ大統領のように黒人とのハーフー父親は黒人のなかでも高学歴の資産家、母親は白人ー存在するくらいである。
差別と区別とは違うというが、お互いを認め合うには傷つけ合わないことであろう。エゴイズムにとらわれていると、傷つけあう結果となる。
そういえば私の友人の韓国人キリスト教伝道師曰く
「在日は選挙権もないけど、税金は払え、日本の法律は守れ、でも就職はままならない。そんな状況のなかで生きていくには、頑張って立派な人間になることが先決。そうしないと、アウトローの影が忍び寄ってくる」
もちろん、友人はアウトローにはならなかった。
後に、理数系の高校に進学したと聞いているが、そこでも絵に描いたような優等生だったという。
友人に勧められても、飲酒、喫煙はしない。
なかには、高校生ながら風俗に行ってる子もいたが、勿論勧められてもいかなかったという。
私も、偉人とまではいかなくても、まっとうに生きて行こう。
「はい、餃子二人前に天津飯一つと焼き飯一つですね。それにビール二本、ご注文これでよろしいでしょうか」
バイト先の中華料理店 麗花で、いつものようにホール周りである。
「おーい、岩城、注文みんな出たか」
「えーと、あと酢豚一つでOKです」
午後三時で、あがらせてもらい、高校にいかねばならない。
「岩城、上がりだ」
チーフの声が聞こえる。
元気よく返事をして、休憩室に入る。
「ねえねえ、チーフって韓国人らしいよ。今度店長になるんだってさ」
将来のことはまだ決めていない。しかし、夢は介護士になることである。
その前に、介護職員主任者認定の資格を取らなければ。
定時制高校は、午後四時から出席が始まる。
しかし、バラエティーに富んでいるな。
年齢もバラバラ、ヤンキーもいるし、おじさんもいるし、おとなしめもいる。
私はおとなしめの部類に入る。
なかには、本当の勤労学生というか、バイトをして稼いだ金を家に入れてるというのもいる。
しかし、その当人は茶髪でピアスである。
噂によると、バーテンをしているらしい。
しかし、ほとんど毎日出席して、成績もまあまあ追試など受けたこともないらしい。
推定年齢五十歳過ぎのおじさんもいる。
なんでも、そのおじさんは元アウトローだったらしい。今はその面影もない。
言葉遣いも優しく、ときどき聖書の話などをする。キリスト教なのだろうか。
私は無宗教なのだが、聖書の話って結構真実を突いてるなって思うこともある。
「汝の敵を愛せよ」
とそのおじさんー箱田さんは言っていた。
えっ、変なことをいう人だな。自分の敵を愛する。
普通、敵は避けるか攻撃するものだけどな。
しかし、私は箱田さんの言葉というより、聖書の一節がなぜか、頭にこびりついていた。
箱田さんはアウトローであることを隠しはしない。
いくら隠しても刺青のあとは残っているし、小指は欠けている。
箱田さんにアウトロー時代の写真を見せてもらったとき、あまりの人相の悪さに思わずギョッとしてのけぞりそうになった。
顔立ちはまったく変わらないが、顔つきはまったく違う。
まるで地獄でうめいていた鬼が、天国にいったような穏やかな表情である。
箱田さん曰く「アウトローはもう、人間として生きていけない。銀行口座もつくれないし、家もいや車さえ借りることはできない。貸した方も罰せられる。
市営住宅でもアウトローであることがわかったら、即退去、
商売でも、アウトローと関係があると言った時点で営業停止。
だから僕は、入学することのできなかった高校をなんとしてでも卒業し、作家を目指すつもり。幸いながら、刑務所生活十四年のなかで書いた獄中日記があるんだ」
私は絶句した。箱田さんのような人に会ったのは初めてである。
箱田さん曰く
「僕は敵方のある幹部を撃つように言われ、その通りにした挙句の果て、懲役に行ったが、組に帰ると幹部になる予定だったが、破門されてしまったんだ」
私はふと思い出した話であるが、この頃のアウトロー世界はいわゆる学のない人を利用するだけ利用し、刑務所からでた時点で破門だという。
アウトロー世界でも、やはり法律の知識をもったインテリが必要とされる。
「しかし、腐っていても仕方がない。当時のアウトロー仲間はみな、堅気の仕事についていた。なかにはキリスト教の牧師になった人もいる。
僕は今、その人の教会に通っているんだ。まあ、一般の人ばかりではなく、元少年院出とか元アウトローも存在するよ」
ふーん、風変わりな教会だな。教会というと、年配者が多いといったイメージがあるが、こういう教会もあったのか。
私も一度行ってみたい。色んな人に出会い、コミュニケーションをとりたいな。
そしたら人生に幅ができそう。
聖香は好奇心満載状態になった。
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