閉ザサレタ世界のエクソシスト

朽琉 准

Episode0  ─プロローグ─


 大学受験までもう一年切っちゃった、黒日誓奈くろひせいなは呟いた。

 不安で憂鬱な気分が誓奈を圧迫する。

今、誓奈は駅のホームで1人、暗い空を見ていた。


 受験なんてなかったらと思う。

 3年間しかない高校生活、その大半を勉強に費やすことになるんて、そんなの勿体なかった。

勉強も運動もそこそこだった誓奈は受験のことを忘れようと今まで過ごしてきた。

散々遊んできたけれど、とうとう逃げられない場所まできている。


「もう少しコツコツ勉強してたら、不安にならなかったのかな」


 これから頑張らないといけないのに、なぜか後悔から始まる自分が嫌になる。

 そうこうしているうちに電車がやってきて、ドアが開いた。

車内から溢れる光、乗り降りする人達の声に何も感じないまま、誓奈は電車に乗った。

──セイシュンなんて、こんなものか──


 目的の駅に着いた誓奈は電車を降り、改札を出た。

そしてそのままいつも通り、改札のすぐ横の階段の曲がり角を歩いていると、人とぶつかった。


「あっ、ごめ……」


 ぶつかった人が自分よりも背が高い男の人だと感じた誓奈は急いで謝ろうとしたが、それをかき消すようにぶつかった人が喋りだした。


「すまない」


 さりげない一言だけだったが、男の声はどこか懐かしく、優しさに満ちていると感じてしまった。

 男は誓奈に向かって軽く会釈をすると、そのまま自分が向かう方向とは反対方向へ歩いていく。

顔はよく見てなかったが、レザージャケットにジーンズというなかなか見慣れないファッションだが、その後ろ姿はなぜか目に焼き付いている。

 男の姿を確認した誓奈はスマホで時刻を確認し、急いで駐輪場へ向かった。


 誓奈は自転車に乗って駅から予備校に向かう途中、コンビニで軽食を買っていた。


「おにぎり1個とグミ、あとお茶でいいかな」


 勉強のお供の商品を買っても、なぜかぶつかった男の人が忘れられない。

一目惚れなどの恋愛感情などではない、例えようもない感情に引っかかりつつ、誓奈は再び自転車を漕いだ。

──あとトンネルひとつで着いちゃう──

 車通りも少ないトンネルを抜け、今日も誓奈は予備校に向かっていく。



 東京都内の真夜中のビル街、その建物の間を高速で移動する2つの影が存在した。

 1つは生き物の影。獣のようでありながらも一般的な動物の姿とはかけ離れており、大きさも2メートルを超えるほどの大きさだ。

その異形の生物は巨体に似合わないスピードで建物の壁や道路を動き回っている。

 そしてもう1つの影はその異形の生物を追いかける人。それも生物のスピードに負けないような速度で走り、両手に持った拳銃型の武器で狙いを定めていた。


「その命……逃がさない!!」


 そう呟きながらトリガーを引くと特殊な発砲音が鳴り響き、弾丸が発射された。

 弾丸は素早く正確に生物に命中し、壁を登りかけた状態から崩れるように落ちていった。

 倒れた生物の近くまで歩いたその人は生物の生死を目で確認する。

生物の体が僅かに動いたその一瞬、間髪入れずに銃弾を放った。銃弾を浴びた生物はピクリとも動かない。


「逃さないって……言ってるじゃない」


 そういうと銃の弾を別の弾丸へと装填し、動かない生物の体に向かって放った。先ほどのものと違い、弾丸が命中すると生物の全身は青い炎に包まれる。


「ミッション……コンプリート」


 そう呟くと拳銃型の武器を建物に向けワイヤーを放ち、ビルの屋上に引っ掛ける。

ワイヤーを上手く使いながらビルの屋上にたどり着くと、月の光がその人を照らした。

 長く美しい髪、雪のように白い肌が露わになったその女の子は、しばらく月を眺めている。

──どうしていつもこんな日は綺麗なの──


 しばらくすると青い炎で燃えている生物の場所に数人の武装集団が現れた。

 現れた武装集団をはるか上から監視するように見ていた女の子は一言


「遅い」


とだけ言い残してその場を去っていった。



 予備校での勉強を終えた誓奈は荷物を纏めていた。

──前に学校で先生が言ってたところ、ホントに大事だったんだ──

 以前高校の教師が受験のポイントのような話をしていたと思い出し、今回の予備校の内容も同じような内容だったのだ。

 高校の教師の話を誓奈は当時、そこまで重要ではないと聞き流し、友人と共にその教師の授業内容を愚痴っていた。しかし、今になって思い出してもう遅い。

──先生、あの時はごめんなさい──

 そう思いながらも、今の自分にできることを考えて頭の中で学習スケジュールを組み立ててみる。

 面倒くさいけれど、やるしかないというのが今の誓奈にとって唯一の行動原理である。


「とりあえず、明日から頑張ろう!!」

 

 小さい声で決意を口にした誓奈は自転車に乗り、予備校まで来た道を戻りながら、自宅に向かって行きに通ったトンネルへ向かう。

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