朝の光景

「……夜ぅ……すぅ」

「……ったく、どれだけ求めてんだよ馬鹿♪」


 小鳥の囀りが聞こえる朝のことだ。

 同じベッドで先に覚ましたのは夜、対する勇樹はまだ夢の中だった。彼は眠っているというのに隣で寝ている夜の胸に顔を埋めるようにして抱き着いていた。あまり体を動かすと勇樹が目覚めてしまう、それはそれでありだがこうして勇樹が眠っている姿を見るのも好きなので夜はそのままにしていた。


「……昨日は凄かった」


 思い出されるのは昨日のことだ。

 気持ちだけでなく体の繋がりも勇樹との間に生まれた。お互いに何も分からなかった場所からスタートし、お互いに色んなことを調べながらの実践となった。


「……っ……やば、思い出すと興奮してくる」


 夜は股をモジモジとさせながら鮮明に記憶を呼び起こす。

 女になったということで、色々と怖い部分はあった。けれどその相手が勇樹だと思うと不安はすぐに消え、逆にもっと自分の体を堪能してほしいとさえ思ったほどだ。


「……オレは女……オレは……女だ」


 もう男には戻れないし戻るつもりもない。

 勇樹と繋がっている間、段々と削れ落ちていくモノを感じていた。それはおそらく夜の中に残っていた男の部分、それが勇樹との情事の間に段々と失われていき、夜は本当の意味で身も心も女性となった。


 まあ、勇樹に恋心を抱き彼の女として生きることに喜びを感じている時点で既に女として確立されていたが。


「なあ勇樹、オレ……本当に幸せだ」


 こうして愛する人と繋がり、愛する人の温もりを感じ、お互いにお互いを求めるあの瞬間の幸福はどんな言葉でも言い表せない。興味本位で見たAV然り、エッチな漫画でヒロインが口にする卑猥な言葉をまさか自分が言う側になるなんて、後から思い出せば本当に赤面ものである。


『勇樹ぃもっとぉ……大丈夫だからぁ!』

「……これはオレじゃない……オレじゃないけどオレなんだよなぁ!!」


 自分の体だからこそ、今の見た目に思うことは何もない。

 ただ自分の容姿が優れており、多くの男性が求めるような理想の姿というのは勇樹の反応を通して理解している。だからこそ、あんな風に乱れて勇樹が色々と頑張ったのもある意味頷けた。


「……昨日はお互いに猿だったな。でも、あんな風に求められるの嫌いじゃない。勇樹に一生懸命求められるのも嬉しいし、恥ずかしい言葉を口にして自分が女って嫌でも分からせられるのも気持ち良かった」


 はぁっと、甘い吐息が零れた。

 話に聞いていた通り、最初は本当に痛かった。でも段々と良くなってきて、最後にはもう体を流れる甘い快楽を耐えるので精一杯だった。きっと無様な顔をしていたんだろうなと思うけれど、それを見ているのは勇樹だけだし今後も彼以外あり得ないので別にいいかと夜は切り替えた。


「……夜?」

「あ、お目覚めか?」

「あぁ……っ」


 眠たそうに目を開けた勇樹が夜に目を向け、そしてその豊満な胸の感触に顔を当てていることに気付いて離れようとした。しかし、それを夜が許すわけがなかった。


「離れちゃ嫌♪」

「わぷっ!?」


 胸元から離れるなんて許さないと言わんばかりに、夜は勇樹の顔を抱きしめた。下着をしていないので当然ダイレクトに柔らかさは伝わり、勇樹の顔を迎え入れるように形を変える。豊かな二つの谷間に勇樹の顔は埋められ、朝から何とも言えない幸福を夜は勇樹に与えていた。


「今更照れることか? 昨日はあんなに揉みしだいたり吸ったりしてさ。オレはまだ妊娠してないってのに勇樹はあんなにも――」

「やめろおおおおおおおおっ!!」


 恥ずかしさに身を震わす勇樹の絶叫が響き渡った。

 まあそれを指摘した夜も顔が真っ赤なのだが、彼女の胸に顔を埋めている勇樹にはそれを確かめる術はない。


「勇樹はエッチだしおっぱい星人だ♪」

「っ……」

「でも大丈夫、オレはいつだって勇樹のしたいようにさせてあげるから。あんなの他の人には出来ないだろ? オレだけが勇樹の為に全部差し出せるんだから」

「……夜」


 その夜の言葉は正に甘い誘惑だった。

 その誘惑に身を委ね、夜という果実に溺れたいと考える勇樹とは別に、夜はもっと勇樹の存在を己に縛りたいと考えている。それは束縛なんて生易しい、魂に至るまで全てを縛りたいのだ。


「……まあでも昨日はさ」

「うん?」


 ボソッと勇樹が口を開いた。

 胸の皮膚に当たる温かな吐息に夜が心地よさを感じる中、逆襲と言わんばかりに勇樹が言葉を続けた。


「俺より夜の方がノリノリだった気がするんだけど――」

「……仕方ないだろ。凄く良かったし嬉しかったんだから」

「あ……はい」


 逆襲にはならなかった。

 さて、昨夜の情事を終えての朝の光景だが……二人ともいつもの様子でありながらも基本的に昨日のことが忘れられない。恥ずかしさは当然だが、それよりも幸せな気持ちの方が遥かに大きかった。


 気持ちだけでなく、体も繋がった特別な日になったのは言うまでもない。

 勇樹も夜もそこまで変わることはないと思っているが……恋人が深い繋がりを持った時に何が変わるのか、どんな変化を周りに及ぼすのか、それを二人はすぐ知ることになる。


 ……まあどちらかと言えば、二人のやり取りが更に遠慮のないモノになるのは簡単に予想できることでもあった。





【あとがき】


後少しで終わります!!

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