時間旅行の難所

顕巨鏡

1582~1583年、西洋 および 日本

1582年から1583年は、時間旅行者が行きたがる時期だ。しかし、この時期に直接むかうと、現地時間との調整をしそこなって遭難するおそれがある。


西洋では、1582年10月にグレゴリオ改暦があった。現地人には、グレゴリオ暦をつかう人と、ユリウス暦をつかう人がまじっている。プロテスタントあるいは東方正教徒であるとわかれば、改暦をみとめずユリウス暦をつかいつづけているにちがいないから、ユリウス暦で同調できる。問題は、カトリック教徒であっても、まだ改暦をただしく理解していない人がいることなのだ。たまたまそういう人を同調対象としてしまい、グレゴリオ暦で時間軸を設定すると、迷子になる。1582年前半ならば、暦の知識のある人ならばみんなユリウス暦をつかっているにちがいないから、同調に失敗する可能性は低い。


日本では、太陰太陽暦の うるう月をどこに入れるかがちがう暦があった。朝廷は天正11年の1月のあとに うるう月を入れる暦を採用したが、東日本で普及していた三島暦は天正10年の12月のあとに うるう月を入れていた。そして織田信長がそちらのたぐいの暦を採用することを主張していた。信長は天正10年の途中で暗殺されてしまったので、その主張が国の標準になることはなかったけれども、民間の暦は統一されていなかったのだ。朝廷の暦にしたがえば天正11年1月であるとき、三島暦にしたがえば天正10年の うるう12月となる。ここでも、同調対象がどちらの暦をつかっているかをただしく認識しないで時間軸を設定すると、迷子になる。


この時期に行きたいのならば、1582年前半に到着してとどまるようにするべきだ。したがって、1年ぐらいの滞在ができる装備が必要だ。

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