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 次の瞬間窓枠の内側に赤い影が奔った。かなり大きな、人間? いやまさか。しかし……そう思った矢先にまたしても大きな影。今度は間違いなくひとだ。恐らくは成人男性程度の……それが水平に飛んでいってなにかに激突した。

 驚いている間にまた赤い影が宙を切って飛ぶ。ほとんど視認できないが、が壁や天井で跳ねるたびに鋭い衝撃音が響いてくる。かと思えばまた水平にひとが飛び壁に激突した。

 室内でひと際大きな鋼の騎士のような姿が周りの人影を掴んで叩き付けている。

 なにが起きているのか全然わからないが、とにかく一方的だという雰囲気だけは伝わって来た。


 やがて銃声も途絶え、割れた窓の中から響き渡る呵々大笑。やや高いその男の声は、屋敷を守る男達に降伏を迫っているようだった。

 それに反発するように銃声が三つ、あるいは四つか。ほぼ同時に大きな銃声がふたつ、さらに一瞬あけてふたつ。

 奥に妙に腕の太い美丈夫が見えた。両手に大きな拳銃を持っている。そして少なくとも窓から見えている上半身は裸だ。


 いや何故裸……?


 少々遠目からでもはっきりわかる、顔や体とは合わない両腕の肌の色、そして両肩の縫合したような大きな傷跡。


『アイツを見つけたらよおく見てごらん。肩とふくらはぎ辺りを特にじっくりねえ』


 【大奥様】の言葉がまたひとつ思い返される。


 


 つまり四六時中見えるような姿をしているということだったのか。では、ここからはわからないがふくらはぎ辺り、下肢も露出しているのだろうか。

 先の取材で聞いた言葉が現状と噛み合っていく不思議な感覚とともに、これほど無防備に銃弾飛び交う最中さなかを闊歩する《大暴食》の恐ろしさと、恐ろしいと思えば思うほどにそれを従える【大奥様】の不気味さが増してゆく。


 彼は、我知らずと吸い寄せられるように窓際へ近付いていった。


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