オモチャ箱

武智城太郎

オモチャ箱

 その日、ぼくと親友の大介は、ぼくの部屋でオセロをして遊んでいた。けっこう熱戦でもりあがってたのに、お母さんが、

「木村さんご夫婦、旅行に出かけられたんだって。夕方には親戚の人が世話をしに来てくれるらしいから、それまで部屋で遊んでてあげて。春斗くんていうの」

 といって、小学一年の男子をつれてきた。

 そいつはブスッとしてて無口でカワイくない感じ。あまりカッコよくない特撮ヒーローの人形を逆さにもって、パンパンと楽器をたたくみたいに床にぶつけてる。雑な遊びかただ。あと、バスの絵柄のオモチャ箱を大事そうに自分のわきにおいていた。

「木村さんの家ってすぐ近所だけど、こんな子がいるなんて初めて知ったよ」

 ぼくも大介も、四年も下の子の相手を押しつけられてシラケ気味だったけど、お母さんが缶のクッキーを出してくれたから、しかたなく遊んでやることにした。

「おい、おまえ、オセロできるか?」

 大介の問いに、春斗はだまってうなずく。

 まずは大介と春斗で対戦することになった。ぼくは見物だ。

 五年生を相手にけっこうがんばったけど、やっぱり春斗が負けた。声には出さないけど悔しそうな顔。負けず嫌いらしい。

「やっぱ、一年坊は弱っちいな」

 そうバカにしたとたん、大介はパッといなくなった。

「あれ? 大介どこいったの? トイレかな」

 まあいいや、次はぼくとの対戦だ。

 春斗は勝ちたくてカッカしてたみたいだけど、ぼくは大介のとき以上に大差をつけて負かしてやった。

 悔しさで泣きそうになってる春斗が、ぼくのことをギッとにらむ。

 すると次の瞬間には、なんだかゴチャゴチャしたうす暗い押し入れみたいな場所にいた。

「英太、おまえもきたのか?」

「大介! どうしたんだよ、そのダサい姿は⁉」

 信じられないことに、大介は粗いつくりのフィギュアにされて、透明のスーパーボールの中に閉じ込められていた。恐竜とかゲームのキャラクターみたいに。

「なにいってんだ。おまえこそ、自分の姿をよく見てみろ」

「え? わっ!」

 いわれてみると、ぼくもギャグアニメみたいなデザインのプラスチックの人形になってて、丸っこいオモチャのオープンカーに乗っている。降りようとしても、がっちりと固定されてて身動きできない。

「ここって、あの一年坊がもってたオモチャ箱の中なんだってさ」

 まわりを見まわしてみたら、ギュウギュウの満員だった。みんなぼくらみたいに、春斗にオモチャにされた人たちらしい。

「息子の変わった特技のせいで、みなさんにご迷惑を。ほんとうに申しわけございません」

 あやまってるのは春斗のお父さんだ。

「甘やかしすぎたせいか、少々ワガママに育ってしまって。かくいうわたしたち夫婦も息子の機嫌をそこねてこのありさまに……」

 そばには春斗のお母さんもいて、二人ともボーリングゲームのピンにされている。夫婦で旅行に出かけたというのは、たぶん親戚の人をだますための春斗のウソなんだろう。

「これってどうやったら帰れるの?」

「春斗くんが遊び飽きたら、その人は元の姿にもどれるみたいなのよ」

 いくつかピースの欠けたミニジグソーパズルにされている女の人が、ぼくの疑問にこたえてくれる。見おぼえがあるなと思ったら、うちの小学校の吉崎先生だった。春斗がいるクラスの受け持ちだったらしい。

「でもあの子の遊びかたは乱暴だからなあ。元にもどれるまえに、きっと体をバラバラにされてしまうよ」

 さっき春斗がもっていた、あまりカッコよくない特撮ヒーローの人形がそういってなげく。首の関節がズレて、いまにも銀色の頭部がはずれてしまいそうになっている。春斗がよく行くクレープ屋の店長さんらしい。

 そのとき天井のフタが開いて、オモチャ箱の中がきゅうに明るくなる。それから巨大な手がぬうっと入ってきて、オープンカーのオモチャであるぼくをつまみあげる。

「わっ、なんだ⁉」   

 その巨大な手は春斗のもので、ぼくの後輪をフローリングの床に押しつけてゼンマイをまくと、パッとはなす。

 ぼくは何百キロっていう感じの猛スピードで走り出し、壁に激突するとその衝撃で空中三回転してから、ガチャーン!と頭から落下する。

「はやく飽きてくれるといいけど……」

 ぼくはクラクラする頭でぼやいていた。

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オモチャ箱 武智城太郎 @genke

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