第19話 群れることを嫌う

「この道は・・・鏡の宿への道だ!」


 土乱に案内された抜け道を出るとそこは鏡の宿から目と鼻の先の森だった。


「臭うな・・・」


「またか!?」


 ホロがまた何かの臭いをかいだ。


「・・・安心しろや、ただの山犬の群れだ」


 よく見れば、離れた距離に山犬の群れが10匹ほどいた。


「へっへっへ・・・山犬に食い殺されたくなかったら、有り金と、その極上な女、2人を置いていけ。死にたくねぇだろ?」


 その山犬の奥に1人の男がいた。見たところ、山犬を従えて1人で山賊をやっているようだった。


 ホロが山犬の群れに単身突進した。


「この、犬っころ!」


 ガッ!


 山賊の鼻っぱしに一撃を食らわせた。

 山賊は地面に倒れた。

 周りの山犬たちは、ただそれを見ているだけだった。


「うぅぅ・・・命だけは・・・」


「おめぇ、そんなんで山賊やってんのか?まぁ弱ぇからこうやって山犬かき集めたんだろ・・・見逃してやる!」


 ホロが許すと山賊は立ち上がり、鼻を抑えながら走って逃げた。

 山犬たちも山賊の後を追った。


「なっ、群れる奴なんざあの程度なんだよ。まぁ土乱は強者と認めてやっても良いがな」


「お主は仲間はおらんのか?」


「仲間作らんとまずいのか?」


 ホロが険しい顔でこちらを見ている。


「狼と言うのは、群れを作って生きる生き物だ。いくらお主が強者でも孤独な生き方はするべきではない」


 サッ!


 ホロが刀を抜くと某の首を狙った。

 某は躱した。


「さすが、あいつの血を飲んだだけある。おめ~は強者だ」


 ホロが笑った。


「光、弱い奴が取る行動は3つある。強い奴に尻尾振るか、同じ奴らのところにいって吠えまくるか、独り鳴きまくるのどれかだ」


 言っていることに間違いはない。

 ホロという元人間は筋金入りの強者だ。


 だが某は修行を積んで、自分の限界というのを感じた。それゆえ、天狗党の仲間達は大切なものだった。

 そして天才である兄者も限界のある人間だった。


「ホロ、刀を納めい」


 ククリ殿がそう言うとホロは刀を納めた。


「安心せい光殿。ホロは独りではない。わらわがついておる」


「ククリは真に強い男が分かっているからな!」


「たわけ・・・頭をなでるでない・・・」


 あきれるククリの頭をホロが笑顔で撫でている。

 どうやらホロはククリ殿を大好きなようだ。


 うらやましいと思う気持ちをすぐに心の奥底にしまった。


「・・・まだ臭うな」


 ホロがまた辺りを見回した。

 確かに気配を感じる。


「妖怪で間違いないな?」


「ああ・・・」


「ホロ、土乱が言うにはあの三ツ頭の犬は何日か前に現れたと言っていたな・・・」


「それがどうした?」


「もし、あれが鬼神が放った刺客だとすれば?」


「つまり罠にはまったって事か?」


 師匠にお願いはしておいた。我らが出立するとき、同時に我らのおとりをあちらこちらに出現させるようにお願いした。

 鬼神に我らが今どこにいるか簡単に悟られないためだ。


 だが同時に鬼神もそれは読んでいるだろから、行く道のあちらこちらに兵を伏せているだろう。


「おそらくあの三ツ頭はその配下だ」


「あ~前門の虎、後門の狼ってやつか?」


「問題はいつ、どうやって仕掛けてくるかだ」


 攻撃を仕掛けるとき相手が思ってもいない所から攻める・・・。


「どこから臭ってくる?」


「後ろだ・・・つかず離れず、襲ってこず。良い距離保ってついてきてやがる・・・」


 ホロが後ろを向いた。

 静かな木々の向こうに妖怪がいる。


「前は?」


「まったく臭わねぇ」


「・・・鏡の宿で罠を仕掛けよう!」


「見つけた!」


 突然、ホロが何かを見つけた。

 某は神斬の柄を握った。


 ホロが木の上に向かって石を投げた。

 一羽の山鳥が落ちてきた。


「よし、これが今日の晩飯だ!」


 獲物を仕留めると大喜びだ。

 さすが人狼。


「光、枝を何本か拾ってこい!」


「ん?あ・・・あぁ・・・」


 群れを作らんと言っときながら、何故か某を下っ端のように命令してきた。

 抗う気はないので、そこら辺の生えている枝や落ちている枝を拾った。


「柚子もある!柚子をとれ!」


「はいはい・・・」


「ホロ早く宿に入ろう・・・くせ者が襲ってきたらどうするのじゃ?」


 ククリ殿が、呆れるようにホロに言った。


「安心しろってククリ。俺がちゃんと守ってやるよ!」


 ククリ殿の言葉もお構いなしに辺りを見回して何かをさがしていた。

 ククリ殿は某に申し訳なさそうにこちらを見た。


「えっと・・・某は大丈夫です・・・」


 一応、ホロをかばうようにして言った。だが、ククリ殿が笑みをこぼした。


「すまぬの。ホロは人付き合いが、下手でな。じゃが、お主の事を気に入っているはずじゃ」


「某をですか?」


「お主らに協力した理由は鞍馬天狗からお主が、奴の血を飲んで生きていると聞いて興味を示しおった。そしてあの三ツ頭を仕留めたとき、まさか壁の上から駆け下りるとはホロも驚きじゃった・・・あの野郎は狼が狸に化けてやがると面白がっておった」


「た・・・たぬき・・・」


「おいこら光!はやく拾え!」


*       *       *


「ん~良い臭いだ・・・いただきます!」


 我らは鏡の宿に入った。そして晩飯はホロが地鳥を串刺しにして焼いた鶏肉に柚子をかけて食べた。


「これは・・・うまい!」


「なっ柚子と鶏肉って合うだろ?」


 そして夜中、亥の刻になった。


 すぅ・・・・。


 くせ者がサクヤさまが寝ている部屋の襖障子を開けようとした。


「貴様、何者じゃぁ!」


「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 くせ者がサクヤさまがいる部屋を開けよとしたとたん、中にいたククリ殿が男を蹴飛ばし取り押さえた。


「ちょっと待て、ククリ殿・・・お前・・・たぬき!?」


「あ、あの・・・天狗達からこれを・・・渡せと・・・」


 くせ者は化けだぬきであった。

 風呂敷を大事に抱えていた。

 ホロが言っていた壺装束では問題ありとの指摘に某は仲間伝いに別の衣服を頼んでいたのだ。


 師匠は化けだぬきを使って荷物を持ってこさせたか。


「いや、こんな夜中じゃ無くて昼間に普通に登場して渡せ!」


「・・・怪しまれぬように・・・と」


「夜中に渡す方がよっぽど怪しいだろぅ~!」


「いやねっ、途中まで後ろをつけていたんですよ。そしたら森の中で突然、皆様が消えたんですよ・・・もうあっしはどうすれば・・・と思ったら、また出てきて・・・いつ渡そうかと?」


「あぁ・・・そうか、それは大変だったな。しかし一匹で危なくはなかったか?」


「へへ、おいらは身を隠して逃げることに関しては誰にも負けないので、犬神1000匹相手にしても逃げ切ったことがあるよ!」


「お主も、なかなかの強者だな・・・」


 化けだぬきは、荷物を渡すとすぐに立ち去った。

 我らは無事寝床についた。


*       *       *


「ククリ、準備は出来たかー!!!」


 朝早くホロの大声が宿に炸裂した。


「今出る、でかい声を出すでない!!!」


 それを返すようにククリの声が飛んできた。

 男の方は準備を済ませて待機中だった。


「待たせたの・・・」


「「おぉ!?」」


 ククリが出てくると続いてサクヤが出てきた。

 光とホロはサクヤを見て声を上げた。


「壺装束よりこちらの方が動きやすいのは間違いないが」


 その姿は朝顔が描かれた直垂姿だった。

 朝の光に照らされながら朝顔の直垂を着たサクヤさまが恥ずかしそうに立っている。


「光さま、どうでしょう?」


「お似合いです・・・」


 朝顔の直垂を着て照れているサクヤ様を見ると、こちらも照れてしまう。


「しかし、朝顔の直垂って誰の趣味じゃ?」


 ククリ殿は好みが合わんのか某にこの直垂を選んだ者を尋ねてきた。


「多分・・・無学殿だな・・・」

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