第11話 奥州からの助っ人
「ハァ、ハァ・・・・」
内裏(だいり)の前にある建物へと入った。その建物には池があった。
神泉苑である。
ゴォォォォォ。
神泉苑の塀が高くなった。
暗闇で真っ黒だった池が赤くなり、池の中から黒い妖気が無数に立ち上っている
「女が舞った場所に隠したか?」
鬼神が池の中で立っている。
「もう一度、試してみろ。貴様の修行が無駄では無かったことを照明してみろ」
鬼神が両手を広げて近づいてくる。
(好き勝手言いやがって・・・)
心の中で、そう思うが冷静にならねばならない。
先ほどは斬れなかった。
だが!
バッ!
背後から鬼神の式神が襲ってきた。
式神が某の心臓を狙って突きを入れようとしたが式神の胸を切り上げた。
ガッ・・・ダン!
その隙をつかれて鬼神の肘鉄を食らった。鬼神は左手で某の首を掴むと押し倒した。
「・・・貴様の命、ここで終わるのか?」
「ここでは・・・死ねぬ!」
ギュウウウウ!
「が・・・あっ!」
鬼神が首を絞めてくる。
「おい、こらぁ!」
上で大声がした。
背後の館の上へと視線を向けた。
ダァァァッン!
屋根から1人の男が飛び降りた。男は鬼神の顔面に蹴りを入れようとしたが、鬼神は後ろへ躱した。
某は立ち上がり、屋根から飛び降りた男を見た。
見たところ自分より1寸(3センチ)ほど背の高い男だ。
着ている直垂には見たことの無い幾何学模様が描かれ、その上から毛皮を来ている。
2本の刀を差している。
刃渡りは、1尺6寸(48センチ)ほどか?
見たことの無いどこか古風な刀だった。
頭から獣の耳が生えている。
人狼だ。
「もしかして、お主が師匠が呼んだ助っ人か?」
「おうよ、お待たせ!奥州から来たぜ!」
「あと少し遅かったら某は死んでいたところだった」
「ばかやろう!俺が助ける前に死ぬ奴があるか!」
よく分からんお叱りを食らった。
見た目もそうだがこの者は少し風変わりなようだ。
「俺のこの姿、かっこいいだろう!」
「・・・・・・」
「何黙ってんだお前?」
この状況でもっと意味不明な事を言ってきた。人狼が指さす頭の獣の耳を見た。
「いや、まぁ・・・・」
正直、某にはかっこいいより別の感覚があった。この者と馬が合うのか心配になった。
「よぉ~久しぶりだな・・・」
人狼は鬼神の方を向くと鬼神に狼の犬歯を見せながらそう言った。
「清盛が死んだら次は頼朝かよ?」
「清盛は運があった。次は頼朝だ」
「相変わらずだなぁ。羅城門に強い奴、置いとけよ。簡単に入れたぞ!」
人狼が飛び膝蹴りをした。
鬼神は手で止めたが、威力で後ろへさがった。
ザッ!
男が一気に間を詰めた。
人狼は刀で鬼神の腹を斬ろうとした。
鬼神は後方に下がった。
ガッ!
人狼は鬼神に追撃の一太刀を入れた。
鬼神はそれも躱した。
鬼神は両手に武器を具現化した。
ガァアアアッン!
鬼神が具現化させたのは2本の斧だった。片手で扱う程度の長さの柄に頭を粉々に叩き潰せるほどの大きな刃が付いた斧を振り下ろした。
それを人狼はもう一つの刀を抜いて二刀で受け止めた。
「鞍馬天狗、そして人狼となったお前もあの2人を守るか?」
「天狗の頼みでな、まぁどのみち俺もおめぇとは無縁でいられねぇ・・・だが、しばらくはおとなしくしやがれ!」
ザッ・・・。
鬼神の後ろから巫(かんなぎ)が現れた。
「これはこれは、これもおとりだったか!」
鬼神は薙刀を持った巫を見て、両手を広げた。
「光さま、行きなさい!」
「巫様・・・申し訳ありません」
某はこの場は巫様と人狼に任せると大急ぎでその場から離れようとした。
「光さま・・・」
巫様が某を呼び止めた。
「約束です・・・娘を最後まで守って下さい」
巫様の目にひとしずくの涙が流れた。
返事が出来ない。
頭を下げると某は走り出した。
神泉苑に残ったのは鬼神と巫とそして人狼。
人狼が鬼神に突進した。
鬼神は式札を3枚、人狼に向かって投げた。式札は魍魎になると、人狼に立ちはだかった。
人狼は3体の式神を一瞬にしてかみ切れにした。
ブンッ、ガッ!
ホロは鬼神に太刀を振った。
鬼神は受け止めた。
「さすがだな!右手がしびれたぞ!」
「何がしびれただ?笑いながら言いやがってぶっ殺すぞ!」
鬼神の腕が変わりだした。
黒い模様が走る細身の腕が筋肉質な腕へと変わる。
「100年前、私に勝った・・・もう一度、私に勝ちたいか?」
「あぁ、痛い目見せてやるぜ!」
ガァン!
「この・・・やろう・・・」
人狼が鬼神の一撃を受け止めたとき、衝撃が走った。衝撃に耐えたがその威力は腕から背中へと刃で貫かれたような衝撃だった。
鬼神の身体中から妖気があふれていた。
鬼神が左手に短刀を具現化した。
人狼の喉仏を狙った。
バキィ!
「なめんなこらぁ!」
人狼は短刀を口で、かみ砕いた。
人狼は鬼神に頭突きを入れようとした。だが、鬼神は人狼の首を掴むと、人狼を乾臨閣へと投げ飛ばした。
次の瞬間、巫が鬼神に突進した。
だが、その前を突如現れた、2体の式神がふさいだ。
ザン!
巫は2体の式神を一瞬にして斬った。
そして鬼神に一撃を振り下ろした。
ガシッ!
「それで私を斬れるのか?」
鬼神は巫の薙刀の刃を掴んだ。
「いいえ、これは斬るために繰り出したのではありません・・・縛!」
巫が一声あげると、薙刀が光り出し、刃に文字が浮かび上がった。
急・急・如・律・令
巫は刀印を作った。
神泉苑の池に渦が巻かれ始めた。
それを見た鬼神は笑い出した。
「正義の味方の力を借りたか!その力で娘を私から守るか!」
「それで娘が幸せになれるのであれば、わたくしは自分の命を持って、あなたをしばし押さえ込みます!」
「見せてみろ、お前のその強さを!」
渦の中から五芒星が現れると鬼神と巫を飲み込んだ。
* * *
「ハァ、ハァ・・・ちきしょう・・・」
斬れるであろう太刀の渾身の一撃は奴を斬ることが出来なかった。
悔しさを抑えながら、走った。
東市が見えてきた。
シュルルルルルル・・・・・・。
後ろから危険を察知し、右へ避けた。某の横を大きな物が回転しながら地面に刺さった。
振り向きざま右手に隠していた棒手裏剣を投げた。棒手裏剣は見事敵の右目に命中した。
「アァァァァァ・・・」
鬼か。
顔に布を巻いているせいで顔がよく見えない。その布から一本の角が飛び出している。
腰に鍋蓋ほどの大きさの輪っかになった刃物を多数付けている。
その鬼は右目に刺さった棒手裏剣を抜くと鋭い刃が生えている口でかみ砕いた。
そして輪っかになった刃物を両手で構えた。
手足の長い鬼だ。
首を平行に左右に揺らしながら、迫ってきた。
鬼が刃を振り下ろした。
ガキッ!
太刀で受け流し距離をとった
鬼が投げた刃を避けた。
「ギギャアアアアアア!」
身の毛のよだつ奇声をあげて鬼が切りつけてきた。その攻撃を距離を取りながら躱した。
シュパァァァァァ!
鬼はその丸い武器を飛ばして来た。
それらを全て躱した。
鬼が口をゆっくりと開いた。
「アノ、女ハ災イダ・・・世ノタメニ・・・俺ガ始末スル!」
「何だと?」
この鬼はサクヤ様を災いだと思っているのか。
「殺させるか・・・絶対に!」
身体の奥から力があふれてくる。
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