ゴジラゴジラゴジラがやって来た

あきかん

ゴジラ

 山根美恵子はゴジラだった。

 もちろん比喩だが、初代ゴジラのヒロインと同姓同名なのに似ても似つかない凶暴な性格をしていた。まるでゴジラだった。

 山根美恵子との初遭遇は教室だった。ゆっくりと教室へと侵入して来た山根美恵子は教師をぶん殴った。顎をクリーンヒットした教師は崩れ落ちた。

 山根美恵子は吠えた。コントラバスの重低音の様な叫び声が学校中に響いた。そして、教卓が空を舞った。

 私と2つ前の席に座る片桐の顔に命中した。椅子と共に片桐は横転し床を這った。それと共にクラスの体育会系が山根美恵子を取り押さえにかかったが、山根美恵子は目の前の机を振り回した。

 尾崎が顔を切った。花房は山根美恵子にしがみつくと常人ならざる力で振り回されている。教師の東堂は未だに目を覚まさない。

 怒髪天をつきながら暴れまわり吠える山根美恵子を見ていて、私は自然と惚れてしまった。まるでゴジラの様なその傍若無人の姿に心が奪われてしまったのだ。

 ゴジラミレニアムの片桐博士は篠田の静止を振りほどいて「こんなにゴジラを間近で見るのは始めてだ」と言った。あの何とも言えない感情を抱いてゴジラを見つめ続けた片桐博士の気持ちは、今ならよく分かる。宿命の相手との一時の邂逅。それは誰にも邪魔出来ないゴジラと片桐博士の時間だったのだ。

 私もこの時同じ心境であった。押さえにかかる男子達を散り散りに投げ飛ばす山根美恵子に自然と近づいていった。椅子や机が散らかった教室。山根美恵子の災害に巻き込まれた生徒も床に転がっている。それを避けながらゆっくりとゆっくりとただ心が惹かれる僅かな引力に従って前へと進む。

 山根美恵子は私を睨む。止めに入った生徒達と同じだと勘違いしたのだろう。私は口を開く。この溢れんばかりの思いを山根美恵子に伝えたかったのだ。


「好きだ」


 と、言ったつもりではある。結果はわからない。言い終える前に山根美恵子の拳が私の顔にめり込んで気を失ったからだ。

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