若紫詩衣奈

 どうしてこの男はいつもこうなってしまうのだろう。

 いいや。理解っている。誰よりも、自分のことのように理解しているつもりだ。しかし、だからこそもどかしいのだ。

 何もしてあげられない自分が。

 こうなってしまっていたかもしれない自分を見ているようで。

 自己嫌悪に陥る。これ以上何が出来るというのだろう。ずっと先までこうなのか。これはいつまで続くのか。否。

 今はまだいい。学校ならば、どうとでもなる。だが、その先。この男にはどんな道があるというのだろう。どこへだって行けるようでいて、どこでだって厄介なものを抱えてしまうだろう。

 今のように。

 時々、詩衣奈は想像してみる。

 こうなってしまった自分を。誰よりも知っているからこそ、正確にトレース出来る。

 結果、いつも落ち込む。

 心がずっしりと重くなる。心臓の辺りがきゅっとなる。想像して、本当に本当に怖くなる。

 どんなに好意的にそれを捉えようとしても、どこかで絶対に歪みが生じてしまう。

 実際、よくやっている方だろう。

 自分ならばこうはいかない。ズタボロになる自信がある。精神的にも、肉体的にも。

 一歩間違えれば、女としての、人としての、尊厳さえ失いそうなことを平気で口にし、やらかしてしまいそうな気さえする。

 怖くなって一歩も外へ出なくなるだろう。こうして外へ出ているだけで大したことだ。

 だけど、

 だからこそ、もどかしい。

 この子も。自分も。なにより、


 この子に近寄って来る周囲の人間全てが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る