正直に話せば想いはきっと伝わるから=言葉を重ねれば重ねるほど離れていくこの想い
水乃戸あみ
序章
一回くらい触ってみてえなあ、ってのが始まりだったんだよ。
高校一年生の性に対する欲求は留まることを知らない。だってそうだろ? 俺の隣、学年一の美少女である杜若羽伊奈(かきつばたはいな)は、その名前とその乳からパイ奈という異名を持つ程のおっぱいの持ち主で、隣にただ座っているだけの俺の思考を、そのご自慢のパイオツでことごとく乱してきたんだから。
たった数週間前まで中学生だった俺にそのおっぱいは危険過ぎた。中学の同級生の中に、何カップだか知らないけど、パッと見で巨乳だな、なんて分かる奴はまずいない。けれど、十五年と七ヶ月も生きていれば、パッと見で巨乳だと分かる奴もそれなりに見てきた俺。
けども、俺が今まで見てきたのは、悪魔でも同級生のお母さんだとか、街ですれ違った赤の他人だとか、たまに遊びに来る姉の友達だとか――後はもう画面の向こう側の誰かさんだとか、その程度のモノだったんだよ。
だからさあ。
びっくりするだろう?
同級生で、同じ年で、手に触れる位置に、隣に、大きなおっぱいがあるんだよ。
FだかGだかHだかIだかそれより上なのか知らないけどさ。
え? J? マジで?
……。……はい。頭の整理がね……。新たな情報に脳の処理がね……。……よし。
でさあ。触りたくなるじゃん?
隣見たら机に乳乗っけて授業受けてるんだぜ。こんなん現実にあるのかよ、漫画の中だけの話じゃなかったんだなと思ったね。世界は広いなって。ペンとか消しゴムとかハサミとかボールペンとかプリントとか羽伊奈の近くに落としちゃって、何気なく拾ってもらったその瞬間! シャツの隙間から谷間が見えるんだぜ? わざとじゃないよ! 体育の授業なんか、今は入学したばっかりで、今後の成長を見越してなのか、みんなが結構サイズ的に大きいゆるゆるな体操着――しかも長袖で体のラインは判別しにくいやつ――を着ているにも関わらず、羽伊奈だけ胸に綺麗な三角形が出来てるんだぜ。登りてえなあと思ったね。あの山の頂をさ。
でもさあ。
触るわけにはいかないじゃん?
弁えてるよ。そこはね。いくら羽伊奈がパイ奈だったとしても、いきなり同級生の乳鷲掴みにしたら犯罪じゃん。肩ぶつかったと装いつつ、思わず乳に触れちゃうなんて方法を入学してからのこの数週間、それこそ、その乳山のように模索してたんだけど、冷静になってみればセクハラじゃん。アホかよ、俺。そうだよ。度を越したアホなんだよ。分かる?
でもっさあ!
触りたいじゃん?
本能じゃん? 仕方ないじゃん? でもオナニーしたってむなしくなるだけじゃん? どうせなら触ってから果てたいじゃん?
……だからとりあえずバイトすることにしたんだよ。
意味わかんないって? いやいや、今はあるじゃん。触れるやつ。アレ。アレを買おうと思ったの。でも高いじゃん。だからバイトしようとしたの。え? なんだって?
VR――ヴァーチャル・リアリティ。あ、見た? そうそうCMでやってるやつ。
ゲーム(その他色々)で活用される仮想現実投入マシン。専用のゴーグル付ければ三六〇度、どこをどう見渡しても、目の前には現実じゃない、作り物の世界が広がってるっていうアレね。
プラスして。
最近は専用のグローブも発売したんだよ。触感、感触を再現する為のグローブ。ゴーグル付けて仮想現実で、さらに触感まで再現してみ? もう現実と変わらなくね? ゴーグルも最近は進化していて、顔を覆う系のゴーグルなんかは、鼻に当たる部分に匂いを再現する為のアタッチメントを付けられるヴァージョンなんかも存在するっていうから、そうなったらもうどっちが現実だかわからない程の環境を構築できるってわけよ!
思ったね。俺は思った。
バイトするっきゃないと。
たけーんだよ。お年玉の残り(十万引く九万七千イコール僅か三千円)だけだとともじゃないけど買えないの。
VRゴーグル税込み価格六三八〇〇円、VRグローブ税込み価格五二八〇〇円、香り再現可付属アタッチメント公式名称フレグラス税込み価格三八〇〇〇円。締めて一五四六〇〇円!!!
全部買う必要ねーだろって? どう考えてもフレグラスいらねーだろって?
馬鹿かと。もうね。馬鹿かと。
感動は万全の環境で楽しみたいでしょ!!
匂いが加わるってことがどれだけ重要なのか分かってない!! いや俺もまだ買ってないからわかんないけどさ!! でもどうするよ!? どうするんだよ!? 香りを再現することによって得られる没入効果が、それの有る無しで倍以上違ったらさあ!!
初めての感動が薄れちゃうかもしれないだろう!?
そこで妥協をするって……そんなわけにはいかんでしょう。ていうか男ってこういう馬鹿みたいなことに全力を傾ける生き物だと思ってたけど、俺だけ? え? 思ってても普通言わないだろって? 知らねーや。そんな常識。クソ喰らえだよ。
……ふう。
てなわけでさあ……。
触っていい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます