9話「友達が美女に寝とられた!?」
入学早々に色々とあったものの、ようやく金曜日を迎えて、恋しい週末がやって来る。
ただその前に、3日前に受けた入学テストの結果発表された。
試験結果は、よく分からない長細い小さな紙が渡されて、点数と順位、偏差値が記入されている。
「4位か……」
300人以上いる中で、全体順位4位なら頑張っていると自分でも褒めたい。
ただ、こういうテストで全体順位1位を取れたことは、過去一度もない。
一回くらいは取ってみたいものだが。
ちなみに、この高校では定期テストで学年全体の順位などがない。
理由としては、クラス毎に科目担当教師が異なることがあり、定期テストは科目担当教師によって問題が異なったりするためである。
こういった校内模試のような形のテストのみ、全体順位が発表され、上位15位以内は職員室前に順位と名前が、張り出されることになっているらしい。
張り合っている以上、姫野さんの成績が気になるところだが、高校の中では彼女とやり取りすることはしていない。
とは言っても、放課後にすぐ比べ合いをすることになるとは思うが。
掲示されている中に、自分の名前があるのを見るべく、職員室前に足を運んだ。
(意外とみんな、見に来ているものなんだな)
上位15位までしか出ていないし、各自渡された成績表で、自分の順位は既に分かっている。
それでも職員室前には、かなりの人だかりが出来ている。
上から順位を確認すると、一番上に姫野さんの名前がしっかりと表記されている。
「姫野さん、やっぱりすげぇな……」
これで入試に引き続き、学年1位を連続で獲得したことになる。
この大人数の中で1位を取ることすら、俺は出来ていないのに、連続でキープするというのは格が違いすぎる。
更に下へと順位を追っていくと、当たり前だが4位のところに、自分の名前があった。
更に順位を見ていくと、1つの名前に思わず目が止まった。
「中原さん、9位にいるんだが……」
何かと話す機会がある中原さんだが、普通に頭が良いようだ。
俺に忖度させる必要など、全く無さそう。
まぁあの言葉は、本気にするようなものではないとは分かる。
なら、友達になってくれと言われた真意がよく分からなくて、それもそれでちょっと不安になるが……。
「学級委員長君〜。4位かぁ、やるねぇ」
「うおっ!?」
突然、考えていた本人から声をかけられて思わず飛び上がってしまった。
「中原さん、9位なんだね」
「んー、まぁ出来過ぎかな? まぐれだよ、まぐれ」
よく成績が良くて、たまたまという人はいるが、たまたま良いレベルで一桁の順位にはならない。
中原さん、文武両道の才女らしい。
「まー勉強してると、勉強出来ない男を封殺出来るって、分かったからねぇ」
「そ、そうなんだ」
「だってさ、自分より圧倒的に学力高い女って、男からしたら手出しにくくない?」
「……言われてみれば、そんな気がするかも」
恋愛に疎い俺でも、あまりにも相手の女性が頭が良いと、自分がバカに見えすぎてしまうのではないかと思ってしまう。
何かテレビで、頭のいい大学にいる女性は、敬遠されがち的な話を聞いたことがある。
「でしょー。中3の頃、この事に気が付いてぼちぼち勉強やるようになったんだよね」
「凄くモテて、大変ってことか」
「あ、なんか嫌なやつみたいになったかも」
「いやいや、モテるのは何となく想像できる」
俺の第一印象が勝手に良くなかっただけで、普通に美人だし、スタイルもいい。
制服もうまく着こなして、おしゃれに見えるし、モテるのも頷ける。
「分かってくれるのか〜! いいやつだなぁ、学級委員長君は!」
「あ、あざす……。でも気にしないやつは、それでも声かけてくると思うよ?」
「まぁその時は、武力行使しようかな? 分からないやつには、分からせるしかないよねぇ?」
「へ、平和的な解決を出来るだけおすすめする……」
武道経験者がそんなことを言うと、あんまり笑える冗談に聞こえない。
やっぱりこの人、怖い人かもしれない。
俺には、親近感を覚えてもらえているような気がするので、この関係性を崩さないようにするのが、賢明なような気がする。
放課後。
いつも通りバスから降りると、姫野さんと共に運動公園に足を運んだ。
「お。ベロニャーが芝生の上で転がっとる」
「あ、ほんとだ」
俺が運動公園に通うようになって、知り合った友達である猫が、今日は遊具近くの芝生の上で仰向けになっている。
俺たちは、その猫の近くで荷物をおろして、座り込んだが、それに驚く事もない。
「ニャー」
「あ、あれ。私のところに来た」
「お、おい! ベロニャー、なぜ姫野さんの方に行く!?」
仰向けから起き上がった俺の友達は、伸びをしながら姫野さんの方に、近寄っていった。
俺の方には見向きもしない。
姫野さんが撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らして再びくつろぎ始めた。
「ちくしょう……。猫的にも野郎より、美人がいいってことか」
「今日は、たまたまこっちの気分だっただけだよねー」
そんな感じで戯れながら、俺と姫野さんは今日のテストの結果を見せ合った。
「姫野さんに勝てない……」
「いやー、頑張った甲斐がありましたっ!」
「まず、連続で1位をキープ出来るのが凄いわ」
「奥寺君含め、誰かに抜かれそうでドキドキだったよ!」
「追われる立場って、プレッシャーが全然違うもんな……」
数学は1点差だったが、国語と英語で4点差ずつ付けられて、そこで差が開いた。
今回も、姫野さんは全科目において俺の成績を上回った。
「今回も仕留められたかー。約束だ、何か俺にやって欲しいこととかある?」
以前話したとおり、テストで勝てば何か姫野さんの要望を聞くという話なので、何か要望が無いか尋ねてみた。
「そうだね……。連絡先、教えてもらえたり……する?」
「あ、そういえば交換してなかったね。もちろんいいよ」
いつもこうして、顔を合わせて話をする機会を設けられているので特に意識していなかったが、連絡先を交換していなかった。
スマホを取り出して、メッセージアプリでQRコードを表示して、読み込んでもらうために差し出した。
「これで読み込んでもらったら」
「うん。でも、その前に一つだけ確認させて」
「ん? どうかした?」
ちょっと顔を赤くして、恥ずかしそうに笑いながら姫野さんがこう尋ねてくる。
「もう一つの『条件』。私は……可愛いですか?」
「……」
その表情で、その問いかけはずるい。
直視することが出来ず、思わず顔を反らした。
自分の顔が、すぐに熱くなってしまった。
「言うまでもなく……。可愛いと思います」
「じゃあ、連絡先交換させてもらうね」
姫野さんがスマホ操作をすると、友だち追加されたことを知らせる通知が、俺のスマホに届いた。
その音に反応したベロニャーは、あくびをしながら間抜けな声で小さく鳴いた。
その後は、変わらず公園で雑談しながら過ごしたが、ベロニャーは姫野さんから離れることは無かった。
相手にされなかった俺は、悲しみながらトレーニングに勤しんだ。
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