第9話 死 産



 私が妊娠29週目に入った時に身体に異変が生じて、毎日お腹を蹴っていた赤ちゃんの動きがその日は感じられなかったのです。

 主人にお腹の異変を電話で連絡してから産婦人科へと受診したのですが、結果は最悪な物でした。



「高橋さん、大変言いにくいのですが・・・残念ですがお腹の赤ちゃんからは心臓の音が聞こえません。つまり、お腹の中で亡くなってしまいました、死産です。このままにして置きますと母体にも影響が出ますので、緊急の手術をしなくてはいけません。ご主人が病院に到着次第、子宮内で亡くなった赤ちゃんの摘出手術を行いたいと思います」


「そんな、赤ちゃんがお腹の中で死んだって・・・・どうして?どうして?私はこの子を抱きしめる事は出来ないのですか、この子にミルクを上げること出来ないんですか?そんな、どうして?ウッウゥツウッウッ死産ってどうして?私がいけないのね、あなたのママになれない何てきっと私がいけないのね、御免なさい、御免なさいね、許して。貴方、私、あなたの赤ちゃんを・・お腹の中で死なせてしまったの、御免なさい許して・・・御免なさいウェッゥェッウワァ~ン」


「高橋さんそんなに自分を責めないでください、赤ちゃんは色々な意味で流産や、お腹の中で亡くなる事も有るのです。お二人にご相談ですが、此れより摘出手術を行いますが、赤ちゃんは29週目ですから既に人の形になっていますが呼吸はしませんし泣くことも有りません。ご両親として抱くことを希望しますか?もし生まれてくる子の為にご用意してある御包み等が有るのであれば、ご用意して頂ければ私どもで亡くなった赤ちゃんを包んであげますが、其れと赤ちゃんをどのようにするのか等ですが、赤ちゃんを御葬儀なさいますか、検体として当院より大学でお預かりする事も出来ますが?」


「そんな検体だなんて、私は一度抱きしめたいのですが・・あなたお願い私抱きしめたいの」


「先生、妻がこのように述べていますので、妻の手元にお願い出来ますでしょうか。私は一度家に戻り御包みやオムツを取りに戻りますので宜しくお願いします」


 私が泣き止むまでは先生は待ってくれていましたが、主人が戻るとすぐに麻酔を掛けられて摘出手術が始まりました。

 麻酔から目覚めた時には既に私のお腹の中から赤ちゃんは取り出されていて、主人が持ってきてくれた御包みに包まれた赤ちゃんが、未だ暖かくて柔らかいのに泣く事もミルクを上げる事も出来ないなんて・・・只々嗚咽するばかりでした。


 主人にお願いして、小さな棺に入った赤ちゃんを火葬して頂きまして、遺灰を小さくて可愛い骨壺に入れておお仏壇に飾ったのです。

 私は毎日泣いてばかりで、この子を産めなかった主人への思いと、お腹を蹴ってくれていた時を思い出してはお腹を擦り、家の事が出来なくなっていました。


 毎日お仏壇に手を合わせては主人が購入するのを反対していたお墓を建て、お参りしている毎日だったわ。

 そんな私に、仕事を終えてからも疲れているのに優しい言葉を掛け続けてくれていた主人でしたが、暗い顔をしている私に嫌気も出て来ていたのでしょうね。


 最初の子を死産してから一年が経ち、再び私達に二人目が出来たのですが、私の精神的なものからなのかも知れないけれど流産してしまい、私の身体は妊娠が望めない体になってしまったのです。

 其処から私たち夫婦の間に隙間風が吹き始めたのかも?主人はもう泣いている私にはただ黙って居るだけで帰りも段々と遅くなり、泊る事こそは有りませんでしたが其れでも終電での帰宅やタクシーでの帰宅が増え、私達の夫婦関係は冷え始めたのです。




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