魔法帝国君主論

序章

ニコラ・ウェレクス＝マギスターによる序文、及び編者による前書き

【序文】

　本書は、理想的な国家像を構想する者たちの参考となることを目的とし、筆者であるニコラ・ウェレクス＝マギスターの生涯の叙述を試みたものである。

　ニコラ・ウェレクス＝マギスター（神歴1852－2022）

---

【編者、アル・キタノ＝ムラスキーによる前書き】

　今日、世界的なウイルスの蔓延により既存の民主的な国家像の限界が明示され、新しい民主的な国家像を構想する必要性が生じている。

　本書はまさにその必要性に応えるべく、ニコラ・ウェレクス＝マギスターが170年にも及ぶ驚異的な生涯の中で経験した研究生活、君主生活を叙述し、彼が提示してきた科学論、魔法論、そして国家論といった様々な主張の背景にあるものを明示しようとしたものである。

　本書は基本的にニコラの一人称によって叙述されているが、ニコラ自身が必要だと思った箇所は他者同士の会話を三人称によって記述している。この会話は記録やニコラ自身の魔法によって復元されたものであり、必要に応じてニコラが説明を加えている。

　編者が本書を出版するに至ったのは、まさにニコラのこの他者には全くできない人生経験とそれに基づいた強靭な理論の確立にあった。

　本書を出版するまでにこの世を去ってしまったニコラ陛下に哀悼の意を表しつつ、その偉業を称えるべく、本書をその墓標として捧げるものである。