第8話 いざ初の魔物狩り

 一階に下りるやいなやギルドから出るイーリス。なんと、壁際の人混みは完全に無視だ。

「出てきちゃってよかったの?」

「なんか用事でもあったん?」

イーリスは不思議げに首を傾げる。

「壁の方に人が群がってたから何かあるのかなって思ったんだけど」


「あー、あの壁には依頼書が貼られとるんよ。みんな美味しい依頼がないか確認しよっただけ」

「俺らは確認しておかなくていいの?」

美味しい依頼とやらを探さなくてもいいんだろうか。

「今日はまだええ。依頼の選び方はまた今度教えたげる」

まあイーリスがそう言うなら大丈夫だろう。




 ギルドから出てものの十分ほどで魔の森にたどり着く。

「ここからは気ぃ引き締め。昨日は出てこんかったけど、いつ魔物が出てくるか分からんよ」

ちなみに魔物はもともと普通の動物らしい。動物に精霊が入り込んだら、動物が魔物に、精霊が魔石になるんだとか。イーリスの話より、意訳を含む。


「分かった。レオン、もう剣になっておく?」

「やだ」

まさかの強目の否定。俺としてはすぐに戦える状態にしておきたいんだけどな。


「なんで?」

しゃがんでレオンと目線を合わせる。左手は繋いだままだ。

「だってね、つかれるもん。だからね、あんまりへんしんはしたくないの」

「分かった。でも魔物が出たら頑張ってね」


 正直なところレオンについては分からないことだらけだ。疲れるっていうのもどのくらいなのか分からない。実際に使ってみるまではね。だから無理をさせるわけにはいかないな。


「まあ、そんな心配せんでも大丈夫やろ。今日は様子見のつもりやから、あんまり深いとこまで行く気ないし」

そう言いつつイーリスは進んでいく。


「魔物って簡単に出てくるものなのか?」

「少なくとも一時間もあれば一匹はでてくるかな。昨日一匹も出んかったんは不思議やったな」

んーなんでやろ、と唸り空を見上げるイーリス。現地人イーリスが分からないなら俺に分かるわけがないので思考を放棄。




「おっ、おったで」

イーリスの指の先には一匹の猪がいる。頭の先から尾っぽまで、二メーターはありそうな巨大な猪だ。


「あれは?」

魔赤猪レッドボアやな。目が赤いやろ? 火の精霊が入っとるんよ」

すると魔赤猪レッドボアがこちらに気付き、俺らを赤い目で鋭く睨みつける。


「まずはそこで見とき。俺がお手本みせたるわ」

イーリスは剣を抜き、構える。


「〈風纏エンク〉」

イーリスから青い光が発せられイーリスの剣が風を纏う。これが魔法ってやつか。すごいな。


「ブオォーッ」

荒れた鳴き声を上げ【魔赤猪レッドボア】はイーリスに突進する。しかも炎を纏ってだ。もろに当たったら吹き飛びそうだし火傷しそうだしまずいだろうな。


 イーリスによって振り下ろされた剣は突っ込んでくる【魔赤猪レッドボア】の勢いを完全に止めて、後方に吹き飛ばす。あの巨体を吹き飛ばすなんて……これが魔法の力か。


「〈風矢アロー〉」

イーリスが右手を上げながら呟く。またもやイーリスは青く光り、今後はイーリスの周りに風が集まり矢の形に。それが五本。

 

 そしてイーリスは手を振り下げる。

 すると風の矢が飛んでいく。全てはの矢は【魔赤猪レッドボア】の体を貫き、奴を絶命させる。


「すごい」

目をきらきらと輝かせるレオン。

「ああ、まさか一撃で倒すとは思わなかったな」

大分やり過ぎオーバーキルな気もするけどな。開けられた五つの穴からこれでもかと鮮血が溢れている。


「まあ、こんなもんかな」

剣を鞘に納めながらイーリスは戻ってきた。

「あれが魔法なんだよね?」

「ああ、いくつか種類があるからまず基本的なやつだけ教えるわ。っとその前にあいつバックに入れといて」


 ということで【魔赤猪レッドボア】を回収。こういう時にマジックバックは便利だな。


「さて、魔法の使い方なんやけど、すごい簡単やで。ある程度魔力があれば詠唱するだけであとは精霊がなんとかしてくれる」

「詠唱って、アローとか?」

「そうゆうこと。ひと通り教えるな」


 そう言うとイーリスはまあまあな数の魔法を教えてくれた。覚えておける気がしないな。後でメモしておこう。


「じゃあ使ってみ」

「分かった。レオン、危ないから少し離れていて」

「うん……」

少し残念そうにしながらもレオンはイーリスのところに行ってくれた。


 それじゃあやるか。少し、いやすごく楽しみだ。

「いくよ、〈風矢ウインドアロー〉」

まずは一度見たことある魔法から。イメージが大切らしいからね。


 おお、風が集まってきた。そして形が矢みたいに……って、あれ? 形が定まらない。

「失敗した?」

「魔力不足やな。そんなはずないんやけど」

「どういうこと?」

うう、心配そうに見てくるレオンの視線も不思議そうに見てくるイーリスの視線も痛い。


「あの水晶の反応の仕方を見ると魔力量は多そうやったし、魔力切れになるようなことはしてないし」

イーリスの眉間に皺が寄っていく。小難しい話になりそうだな。


「ねえ、この出来損ないの矢ってどうしたらいい?」

いまだに集まった風が散らないんだよな。これいつになったら消えてくれるんだよ。

「普通は失敗したらすぐに消えるんやけど」

なんと、謎がまた一つ増えてしまった。


「フロにぃ、だいじょぶ?」

レオンが駆け寄ってきた。そして俺にぎゅーっと抱きつく。


 ヒュッ。


「は?」

出来損ないの矢はいきなり形を整えて飛んでいった。

「やったね、フロにぃ」

レオンは無邪気な笑顔を浮かべているけど、諸手を挙げて喜べるような状況じゃないんだよな。なぜ急に矢ができて飛んでいったのか、これを解決しないとだ。


「今ので二つくらい考えができたんやけど」

「どんなの?」

「まず、フロレスが魔法を使うんに時間がかかる可能性。そしてもう一つは、レオンがいないと魔力が足りなくなる可能性。この二つやな」

 

 問題解決の糸口は見えたので、とにかく実験してみよう。





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 次回は2月18日金曜日午後6時です。

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