第5話 同居人登場

「ただいま」

「ただいま帰りました」

低い声と高い声が一緒になって聞こえた。

「おかえりー、この話はここまでやな」

イーリスは後半を小声で告げる。今までしていた元の世界の話は、今帰ってきた二人には内緒なのだろう。


「おー、イーリス帰ってたのか」

そう言って深紅の髪を後ろに流した男が入ってきた。背は高いが筋骨隆々でイーリスとは正反対な身体だ。


「ところでその方達はどなたです?」

男に続いて長い金髪をした女の子が入ってきた。

「ああ、こいつらやろ。俺が拾ってきたんよ。こっちのがフロレス。あっちのこんまいんのがレオン」

俺が挨拶する前にイーリスに紹介されてしまった。

「拾ってきたって……客か?」


「いや、ここに住んでもらおうかな思うて。ほら、あっちのでかい男がオルテ。女の子がリリーや」

「おいっ、勝手にべらべら喋るなよ。てかいいのか? 勝手にこんなことして」

「大丈夫大丈夫」

 

 二人で話しているところに首を突っ込めず立ち尽くしてしまう。

「あのっ、俺フロレスっていいます」

このまま立っていては駄目だろうし、二人の間に割って入る。


「ああよろしく」

オルテに差し出された右手を握る。イーリスの時とは違い力強い握手だ。

「やから、フロレス。敬語使わんでええんやって。ここに住んどるんはリリー以外みんな冒険者やから」

「そういうことだ」

これにはまだ慣れないな。


「ほら、レオンも挨拶しな」

さっきから俺の後ろにいるレオンに声をかけてみる。こいつ、人見知りだったのか? 俺とイーリスにはなんともなかったのに。


「そっとしておいてあげな」

「そうそう。オルテってほら……ちょっと圧がな」

「うるせーぞっ」

イーリスの煽りに声を荒げるオルテ。仲良いな。


「俺はリリーと晩飯作ってくるわ。いくで」

「はい」

そう言って二人は扉の向こうにいってしまった。あの部屋は台所になっているんだろう。


 オルテがソファに座ったので俺は床に。レオンは俺の背中にべったりだ。

「どうした? 俺のときもイーリスのときもそんなじゃなかっただろ?」

急に人見知りを発揮するレオンに問いかける。

「だって、だって」

言葉を詰まらせうー、と呻くレオン。今はそっとしておこう。埒があかない。


「用はすんだか?」

我慢の限界と言わんばかりにオルテは口を開く。

「うん」

「聞きたいことは色々あるんだけどな」

そうだよな。俺らはいきなり現れたわけだし困惑するよな。出身地聞かれたらどうしよう。


「俺ってガキびびらせるくらい怖いか?」

飛んできたのは意外な質問だ。聞きたいことが色々あってまず聞くのがそれかよ。

「どうなんだろう。俺もレオンと付き合い長いわけじゃないから……」

レオンはすごい人懐っこいと思っていたんだけどな。


「ふうん。で、ここの説明は聞いたか?」

「いや、そんなに詳しくは聞いてない」

「じゃあ俺が案内してやるよ」

そう言って立ち上がるオルテ。


「いいのか? 俺に聞きたいこととかあるんじゃないか?」

「イーリスが連れてきた奴だからな。後でイーリスに聞く。どうせなんかすげえこと隠してんだろ」

そう言ったオルテは豪快に笑う。図星を突かれた俺は自然に苦い笑みを浮かべる。


「レオン、オルテが案内してくれるみたいだから俺は行くけど……ここで待ってる?」

後ろを向いてレオンの目を見る。

「ううん」

呟くように答えるレオン。

「じゃあ行こっか」

俺が立ち上がるとレオンも立ち上がり俺の左手を握る。


「よし、いくぞ」

「ああ」


「まずはここだ」

一番奥の扉を開けるオルテ。扉の先にはまたまた扉が数枚。

「ここだっ、て扉しかないじゃん」

まあまあ、とオルテは一番奥の扉を開ける。


「まずは風呂場な。まあ……水張るのがめんどいから誰も使ってないけどな」

部屋の中には使っていない割に綺麗な、大きい桶みたいな湯船がある。

 そういえばイーリスが下水は通っているけど上水は通っていないって言っていたな。水が欲しければ庭にある井戸から取ってこなきゃなんだって。


 次行くか、と風呂場を出ていくオルテについていく。

「ここは便所な。中は……見せなくてもいいか。勝手に使え。こっちは物置な」

オルテは真ん中の扉と手前のを順に指差す。

「分かった」

「次っ」


「こっちは台所な。今は邪魔になりそうだし今度覗いてみな」

先程、イーリス達が入っていった部屋の扉に手を置くオルテ。俺の予想は見事に的中していたわけだ。


 続いては二階に移動。階段を上るときに抱っこしたのでレオンは俺の腕の中である。

「おっしゃ、テキトーに説明していくぜ。右の一番手前の部屋がファイルってやつのだ。まあしばらくしたら帰ってくるだろ。その次が俺。で、その次がイーリスな。右っ側は以上っ」


「あっ、一番奥の部屋俺がもらった」

「なるほど。まあ妥当か」

少し俯き独り言のようにイーリスは言う。

「何かあるの?」

「ああ、空き部屋はほぼ物置だからな。その中でも一番マシだったのがあそこだからな」

苦笑するオルテ。そうとう酷い状況なんだろうな。


「まあいいか。左の奥の二部屋は空き部屋な。んで、その前がリリーの」

「さっきの金髪ロングの子ね」

「おう。リリーはこの家のこと色々してくれてるからな。掃除とか料理とか」


「それはありがたいね」

「まあな。たまには手伝ってやれよ。あと自分の部屋の掃除と洗濯は自分でしろ。ここのルールな」

「ルールって他にもあるのか?」

何かあった後に、知りませんでした、じゃいけないもんね。


「ああ、買い出しは暇な奴が行く。家賃を滞納するな。長い間留守にするときは誰かに言っておく……くらいかな」

「家賃って?」

しつこいようだが俺は今、無一文なのだ。


「ああ、それはまだいい。そういうのはシラソルが帰ってきてからだろ」

「シラソルって?」

「ここのボス。あの部屋の持ち主だな。今はファイルと護衛依頼中だからしばらく帰ってこねーよ」


 いくつかの謎を残したまま家巡りは終わったのだった。レオンは最後まで何も言わなかったな。話しかけなかったせいかもだけど。





____________________


 新キャラ登場です。まだまだしばらくは増えます。

 次回は2月7日18時です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る