闇に消えた真実~過去のあなたへ~

宵空 月

第一部

プロローグ~運に見放された私~

 世界はたくさん存在する。それはもう数えきれないほどに。

 たくさんの世界にはもちろん、それだけの数の歴史がある。その歴史は本となり、この大図書館に収められる。ここは、世界すべてを統べる神々たちの図書館だ。私はそこで司書をしている。

 そう、今日も又、本の整理という名の仕事をするために。


「わ、わきゃ!!.....」


 ・・・い、痛い。

 どうやらほどけかけていた靴紐を踏んで転んでしまったらしい。


「あぁ...。どうしよう。」


 私の目の前には、転んだ時に落としてしまったであろうたくさんの本が散らばっている。

 ・・・片付けるの大変そうだな...。

 それを見ると、なんだか怒りがふつふつと沸いてきた。


「今日はほんっとについてない!!!」


 そうなのだ。今日は、まるで運に見放されているかのようについてない。

 朝は砂糖の入っているはずの瓶に塩が入っていたせいか紅茶がしょっぱくなり、びっくりして慌ててつかんで飲んだのは、コーヒー...じゃなくてまさかの醬油。口の中を洗おうと蛇口をひねっても水は出ず。しばらく醤油味のする口で過ごすことになってしまった。せっかくおいしそうにトーストが焼けたのに...

 昼は猫にとびかかられたせいでお弁当を落としてしまった。おかげで昼ご飯は食べてない。

 挙句の果てには、上官でありこの図書館の管理人である女神に、膨大な量の仕事を押し付けられてしまった。

 私はイライラする気持ちのまま本を並べてゆく。

 ふと、視界の端に何かをとらえた。


「なんだろう。これ」


 それは綺麗な道具だった。おそらく、たくさんある世界のうちの一つにもあった魔術具というものだろう。虹色の丸い宝石の周りに金の金具がついている。それは宙に浮いていて、宝石からは金色の粒子が舞っている。その粒子の行く先を誘われるままに目で追うと一冊の本があった。


「あれ?私あんなところに本を置いたっけ?」


 一瞬不思議に思ったが、神々たちが本棚から出してそのままにしたのだろうと考え、本に触れる。

 そう。触れてしまったのだ。それが私の最後の記憶だった。

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