第10話 過ち


 扉を開けると、そこには──


「よォ、待っていたぞ」


「……カナト」


 カナトがいた。

 手には光り輝く大剣を携え、防具も新調している。

 なるほど、邪神今日の連中から手厚い支援を得ているのだな。


「……お前はバカだ。どうしたって、救えない」


「お前になんか救ってもらう必要はないよ。俺は邪神様に救ってもらうから」


「そうか、ならば──これ以上の会話は必要ないな」


 俺はそう告げ、3匹を召喚する。


「醜い魔物たちだな。邪神様の崇高なお姿とは、まるで比べ物にならない」


「勝手にほざいていろ」


 会話は必要ない。

 人類の裏切り者である、コイツを屠ればいいのだから。



 ◆



「ララ、【ドラゴンブレス】」


「フドラァ!!」


 ララが放った火炎は、これまでとは比べ物にならない威力だ。

 轟々と燃え盛るソレは、たちまち部屋中を火の海へと変える。


「ぐ、ぁあああああ!!」


 部屋全体が火に包まれたのだから、カナトに逃れる術はない。

 灼熱に包み込まれたカナトは、その肉を焼かれていく。


「リリ、【噛みつき】」


「オガァ!!」


 炎に焼かれて苦しむカナトに、リリが追い打ちを仕掛ける。

 2つの首でカナトの両腕に噛みつき──


「オガァ!!」


「ぐぁあああああ!!」


 両腕を噛み千切った。

 ドクドクと溢れ出る血液は、焔で蒸発する。

 痛々しい傷跡も、すぐさま焔で焼かれた。


「ルル、【潰エタ希望】だ」


「テ・ケリリ!!」


 ルルの身体がさらに黒くなり、次の瞬間──漆黒の光線を放った。

 光線は焔を掻き分け、カイナの下半身に命中する。


「ぁああああああ!!」


 光線はカイナの下半身を、吹き飛ばした。

 その傷口は光線の影響で腐り始めており、何とも痛々しい。


「ぐ、ぐぅううう……」


「どうしたカナトよ、その程度か?」


「ふ、ふははははは!! アルガよ、俺がこの程度で敗れると思うか?」


「なんだ、元気じゃないか。だったら、もう一度──」


「話は最後まで聞け!! 俺は邪神様の加護を授かり、人間を超越したのだ!!」


「で?」


「そして俺は得たのだ!! 人間を超えた再生能力を!!」


 カナトが力を入れる動作をすると、みるみるうちに傷が癒えていく。

 焼かれてケロイド状になった皮膚は、元の鬱陶しいほどに綺麗な肌色に。

 噛み千切られた腕は、グショッと生えてきた。

 そして、下半身は──


「な、何故だ!? 何故回復しない!!」


 一向に再生しなかった。

 相変わらず腐り続ける、カナトの下半身。

 その進行速度は、あと10分で上半身の全てを腐らせると思われる。


「ルルの種族は『ショゴス・ロード』、俗にいう”邪神系”の魔物だ。だからこそ、邪神の加護による再生能力を掻き消すことができたんだろう」


「な、何を言っている!! 俺は……死にたくない!!」


「そうだな、さらなる嫌がらせを思いついたぞ」


 俺は短剣を取り出し、カナトの顔をズタズタに裂いた。

 

「ぎゃぁあああああ!!」


「痛いだろう。この短剣には傷つけたものを、腐らせる効果があるんだ」


「クソッ!! 治っても治っても、そこから腐っていく!!」


「つまり、そういうことだ」


 顔面の腐敗、そして下半身の腐敗。

 どちらもがカナトを苦しめ、苦痛を与える。

 再生能力があっても、痛覚は生きているように見える。

 だからこそ、地獄の苦しみを永遠に味わうのだ。


「た、頼む!! なんとかしてくれ!!」


「俺を追放した時、俺は懇願したはずだぞ? 追放しないでくれ、と」


「だからなんだ!! 今はそんな話、関係ないだろ!!」


「だがお前は俺の懇願に応えなかった。だったら、俺もお前の頼みを聞く道理はないだろう?」


「昔の話じゃないか!! 頼む、死にそうなんだ!!」


「だったら、さっさと死んでくれ」


 虫のいい男だ。

 こんなクズ、早く死んだ方が世の為だ。


「あ、あぁあああ!! 腐敗がどんどん進んでいる!!」


 そうこうしているうちに、カナトの腐敗は進行する。

 今では首から下は、完全に腐り落ちてしまった。

 邪神の加護により、生かされているだけの状態だ。


「頼む!! マジで何とかしてくれ!!」


「……あぁ、わかった」


「ほ、本当か!?」


「ただし、条件がある」


 ニヤッと微笑み、俺は告げる。


「金貨100万枚を、今すぐに用意しろ」


「い、今すぐは無理だ!! だが、救ってくれれば必ず用意する!!」


「交渉決裂だな」


 俺はカナトの頭に脚を乗せた。


「な、何のつもりだ!!」


「さぁ、当ててみろ」


 そのまま足に力を加え、少しづつカナトの頭を潰していく。

 腐敗が進行しているそれは、柔らかく潰しがいがある。


「や、やめろ!! し、死ぬだろ!!」


「そろそろ死んだ方が良いだろう」


「あ、あぁああああ!!」


 そしてカナトの頭部は、トマトのように潰れた。

 真っ赤な汁を巻き散らし、辺り一面を深紅に染めて。


「……終わった」


 カナトへの復讐が、これで終わった。

 思えば、長い道のりだったな。

 追放から始まり、苦節数か月。

 本当の本当に、これで終わりだ。


「残りは……消化試合だ」


 そう呟くと、扉が開いた。

 やってきたのは、シセルさんとレイナ。

 2人も無事に、勝利したようだ。

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