第4話 装備品購入


 その日、俺はシセルさんと防具屋に来ていた。


「これとかどうかな?」


 シセルさんが見せてきたのは、紅蓮のローブ。

 今着ているモノとデザインが似ているが、所々に紅い装飾が散りばめられている。

 なるほど、鑑定してみてわかったが、炎耐性が高いのだな。


「うーん。微妙ですね」


「そう? 良いと思ったんだけどね」


「邪神って炎系の攻撃はしてくるんですか?」


「うーん、部分的にそうかな? 闇属性と炎属性の合成、みたいな攻撃を多用してくるよ?」


「だったら……尚更いりませんね。今の話を聞く限りだと、闇属性の耐性を高めた方が良さそうですね」


「それもそうだね」


 久しぶりに防具店に来たが、色々な防具が売っているな。

 最後に来たのは数年も前だが、あの頃と比べると品ぞろえがガラリと変わっている。


 かつては各属性攻撃に耐性がある防具か、あるいは防御力のみに特化した防具くらいしかなかった。

 だが今は、虫系やドラゴン系に耐性のある防具など、系統に耐性のある防具が生まれている。

 尚且つ、デザインもかつてとは違って、実に多種多様だ。オシャレと言ってもいいだろう。


「あ、これなんてどうかな? 邪悪特攻が付いているよ?」


 シセルさんが次に持ってきたのは、漆黒の手袋。

 グリップが効いた、物を握りやすそうな手袋だ。


「邪悪特攻……?」


「邪悪なモノに対して、10パーセントの特攻が付くんだって。邪神なんて呼ばれているんだから、きっと特攻が効くんじゃないかな?」


「シセルさん的にはどう思いますか? 邪神ていう名前ですけれど、対峙した時に邪悪な印象はありましたか?」


「うーん、なんていうか……邪悪な雰囲気は正直なかったかな。なんというか、私が対峙した邪神って、生まれたばかりだったみたいなんだよね」


「つまり邪神の赤ちゃん……というわけですね?」


「そうなるね。大きくなったら狡猾で邪悪になるかもしれないけれど、少なくとも対峙した時点ではそうは思わなかったな」


「シセルさんが邪神と戦って、数年しか経っていませんよね。邪神の寿命は知りませんけれど、多分俺たちが想像しているよりはずっと長いハズですよね」


「うん、多分ね」


「だったら、邪悪特攻というのは通じないかもしれませんね」


「純粋が悪というのなら、通じるかもしれないけど。確かに望みをかけるよりは、確実に通じる特攻を用意した方がいいよね」


「えぇ、そうですね」


 しかし、邪神に特攻のある防具ってなんだ?

 そんな防具、この世にあるのか?


「というか今さらだけど、多分アルガくんはこんなところで防具を揃えなくても、邪神に勝てると思うよ?」


「え、いやいや、買いかぶり過ぎですよ」


「そんなことないよ!! レイナを仲間にしてから、さらに強くなったよね? だったら、楽勝だと思うけどな」

 

「あはは、でも準備しておいて損はしませんよね」


「まぁね。お、これはどうかな?」


 次にシセルさんが見せてきたのは、漆黒のローブ。

 今俺が着用しているモノと、よく似たデザインだ。


「海系特攻が付いているよ!!」


「海系……ですか?」


「うん!! 邪神はヒトデに似ていたからね、多分通じると思うよ!!」


「そう……ですか?」


 シセルさんがそう言うのなら、そうなのだろう。

 とりあえず、気乗りはしないが……このローブは買っておくか。


「さ、次も見よう!!」


 シセルさんは俺の手を引き、俺たちはさらなる防具の購入を進めた。



 ◆



「今日は楽しかったね!!」


「えぇ、そうですね」


 結局購入したのはローブと手袋、そしてブーツだ。

 そのどれもが海系特攻が付与されている。


「でもこれで、完璧じゃない? 邪神でも楽勝で勝てるよ!!」


「だと……いいですけれどね」


 自分が強くなったことは自覚している。

 だが……それでも尚、恐れているのだ。

 未知の魔物に、心の奥底の俺は怯えている。


「大丈夫だよ」


「え?」


「大丈夫、アルガくんなら勝てるよ」


 シセルさんは俺の心が読めるのだろうか。

 もっとも送ってほしい言葉を、シセルさんは送ってくれた。


「あはは、ありがとうございます」


 ……そんなに悲観しすぎる必要はないのかもしれないな。

 人類最強のシセルさんがそう言うのだから、大丈夫なのだろうな。

 俺は少し、楽観的になれた。

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