閑話 かわいそうな女【サンズ視点】


 失敗したっス。

 ボクたちは何もかも、失敗したっス。

 テイマーもいないのにSS級の迷宮に挑んだことも、チキン戦法で最深部まで降りいてしまったことも。

 何より……そのままボスに挑んだことが大失敗だったっス。 


「クソッ……どうしてだ!!」


「何よアイツ……強すぎるわよ!!」

 

「とても……歯が立ちませんね……」


 ボスの魔物に一撃も与えられず、ボクたちは惨敗してしまったっス。

 失念していたんスよ。チキン戦法で道中のザコは素通りできても、ボスとは絶対に戦わないといけないということを。ボスを無視することなんて、できないということを。

 

 帰還石を使えば逃げられるっスけど、どう考えてもそれをボスが許してくれるとは思えないっス。

 絶望するボク達をニタニタと嘲笑うかのように、ボスの赤い瞳が睨んでいるっスから。とてもじゃないけれど、逃げるような隙は与えてくれないっス。


「俺たちは……ここで死ぬのか」


「諦めないでよ!! 私たちは必ず勝利して、SS級に昇格するんでしょ!!」


「そうですよ!! この迷宮を攻略して、間違っていなかったことを証明するんですよね!!」


「あぁ……その通りだ!!」


 若い彼らはまだ、現状を理解していないようっスね。

 29にもなると……いやというほど、周りが見えてしまうっス。

 アラフォーのボクには現状に希望が皆無なことが、嫌というほど見えてしまうっスよ。


「でも……ボクだってまだ、生きたいっスからね。結婚もまだしていないっスからね」


 現状を救う手段が1つだけあることに、気付いてしまったっス。

 本当は彼らも気付いているかもしれないっスけれど、そのことに目を逸らしているのかもしれないっスね。

 ……決断をするのはリーダーのカナトではなく、年長者のボクがした方が良さそうっスね。


「ラトネ」


「ん、何よサンズ」


「……さようならっス」


 ボクはラトネの腕を掴み、思い切り放り投げたっス。

 ボスに向かって、思い切り投げたっス。


「サ、サンズ!! アンタ!!」


 ラトネが何かを叫んでいるっスけれど、今は無視するっス。


「さ、サンズ!? いったい、何をしているんだ!!」

 

「今のうちに逃げるっスよ!! ボスがラトネに注目している間に、さっさとズラかるっス!!」


「……そうですね、それが英断かもしれません」


「で、でも……それだとラトネが……」


「大丈夫っス、後で助けにくればいいんスから!! 今はボクたちの身の安全を図るべきっス!!」


「そうですよ。ラトネは案外、強いですから大丈夫です」


「……わかった」


 よかった、これで生き延びられるっス。

 ラトネには悪いことをしたっスけれど、まぁ……仕方ないっスよね。

 ボクがアラフォーを迎える寸前だということを知っていて、当てつけのようにカナトとイチャイチャしているんスから。


 そうっス、昔から腹が立つんスよ。

 無い胸を押し付けて、若さに頼った色仕掛けをして。

 まるで……若さの足りないボクを、愚弄するかのような態度が腹立つんスよ。

 だからこれは……自業自得なんスよ!!


「ラトネ……あとで迎えに行くよ!!」


 かわいそうな女っスね。

 あれだけカナトに媚びを売っておいて、結末はこうなってしまうなんて。

 仮にボクたちが助けにきたとしても、その頃にはとっくに死んでいるのにっス。

 哀れで惨めで、若さだけが取り柄だとこうなってしまうんスね。


 カナトが使用した帰還石の影響で、光を放ち消えていくボク達。

 そんなボクが最後にみたものは、憤怒の表情でこちらを睨みつけるラトネの姿だったっス。

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