第3話 配合


「よし、ここでいいか」


 その日の晩、俺は街の近くの山にやってきた。

 辺りに誰もいないここなら、人目を気にすることなく配合術を行えるだろうという考えの元だ。


「とりあえず……ベースとなるのは、こいつらでいいか」


 現状所持している中で、もっとも強い魔物を3匹ほど影から召喚する。


「ドラァ!!」


 1匹目はベビードラゴンだ。

 大きさは俺の腰ほどで、重さは10キロほど。

 オレンジ色のウロコをしており、背中には小さな羽が生えているが飛ぶことはできない。

 二足歩行であり、腕は身体の大きさに比べると多少大きく感じる。


「ウルー!!」


 2匹目はベビーウルフだ。

 大きさは小型犬ほどで、重さは5キロほど。

 灰色の毛が生えており、小さいながらも牙や爪はしっかりと携えている。

 ウルフだということを知らなければ、普通にイヌだと誤認してしまうだろう。


「ピキー!!」


 3匹目はスライムだ。

 大きさは俺の膝ほどで、重さは2キロほど。

 こいつとは長い付き合いで、これまでに幾度か配合を繰り返してきた。

 その為、通常のスライムとは違ってオレンジ色をしているし、身体の中からトゲを生やすこともできる。


「念のため、現状のステータスを確認しておくか」


 俺が念じると半透明の板が出現し、各魔物のステータスが表示される。この半透明の板は通称"ウィンドウ"と呼ばれている。

 俺は3匹のウィンドウを開き、ステータスを確認した。


────────────────────


【名 前】:未定

【年 齢】:1

【種 族】:ベビードラゴン

【レベル】:10


【生命力】:5/5

【魔 力】:2/2

【攻撃力】:3

【防御力】:1

【敏捷力】:1


【汎用スキル】:なし


【種族スキル】:ベビーファイア Lv3


【固有スキル】:なし


【魔法スキル】:なし


────────────────────



────────────────────


【名 前】:未定

【年 齢】:1

【種 族】:ベビーウルフ

【レベル】:10


【生命力】:4/4

【魔 力】:0/0

【攻撃力】:2

【防御力】:1

【敏捷力】:3


【汎用スキル】:引っ掻き Lv3

        噛みつき Lv4


【種族スキル】:なし


【固有スキル】:なし


【魔法スキル】:なし


────────────────────



────────────────────


【名 前】:ルル

【年 齢】:1

【種 族】:スライム

【レベル】:15


【生命力】:18/18

【魔 力】:9/9

【攻撃力】:11

【防御力】:6

【敏捷力】:2


【汎用スキル】:なし


【種族スキル】:ニードル Lv8

        火炎車 Lv4


【固有スキル】:なし


【魔法スキル】:《下級の火球ファイア・ボール》 Lv3


────────────────────



 3匹のステータスが表示される。

 ちなみに所持する魔物のステータスを確認したい時は、こうやっていつでもウィンドウを開くこと確認できる。


 だが人間にはウィンドウなど存在しない。

 その代わりに、冒険者カードがウィンドウ代わりになるのだ。冒険者カードの裏面が、ウィンドウのようになっているのだ。

 まぁ、それでも表示されるのは名前や年齢、レベルや攻撃力などの各数値だけなのだが。

 スキルや職業を確認したい場合は、ギルドで精密な検査を行う必要がある。俺が『配合術師』だと気付けなかった最大の理由だ。


「相変わらず、ひどいステータスだ。……まぁ、俺も人のことは言えないが」


 自虐はこの辺にして、さっそく配合を始めよう。

 これまでの行いどおりだと、配合はレベルが10を超えなければ行えないハズだ。

 だがしかし、これに関しては何の問題もない。


 魔物のレベルアップは人間よりも、数段早い。

 敵を倒した時に得られる経験値は俺と魔物たちで分散されるが、大体の場合において魔物たちのレベルが早々に俺を超す。

 経験値が分散されることが原因で俺のレベルアップは遅いが、その分魔物たちの配合を行える回数が増えると考えると……仕方がないと受け入れるか。 


「では、さっそく始めよう」


 影の中にいる魔物の一覧を確認する。

 またしてもウィンドウが表示され、そこには50ほどのマス目があった。

 50のマスの内、7マスには中に蹲った魔物の姿が確認できる。つまり俺の影の中には、7匹の魔物が眠っているということだ。


 7匹の魔物の中から、1匹の魔物を選択する。

 選んだ魔物はバットだ。15センチほどのコウモリのような魔物で、超音波攻撃を得意とする魔物だ。

 バットが眠るマスをタップすると、そのマスが大きく表示された。


「えっと、《配合術ミックス》……?」


 これまでは無言で行っていたが、せっかく自分が配合術師だとわかったのだ。

 配合術ミックスと呟いた方が、配合をしている感じが出るだろう。


【『ベビードラゴン』と『バット』を配合しますか?】

【はい】【いいえ】


 新たなウィンドウが表示される。

 俺は【はい】を選択した。


「ドラァ!?」


 ベビードラゴンの身体が、金色に光り輝く。

 そして光が晴れると──


「ドラァ!!」


 ベビードラゴンの肉体は変容していた。

 翼が若干大きくなり、また翼のウロコも漆黒に変わっている。変化はそれだけのようだ。

 どうやらリトルボアの特徴を、うまく引き継ぐことができたようだ。

 配合は成功したようだな。


「ステータスも確認してみよう」



────────────────────


【名 前】:未定

【年 齢】:1

【種 族】:ベビードラゴン

【レベル】:1


【生命力】:3/3

【魔 力】:1/1

【攻撃力】:1

【防御力】:1

【敏捷力】:2


【汎用スキル】:なし

        

【種族スキル】:ベビーファイア Lv3

        超音波 Lv2

        

【固有スキル】:なし


【魔法スキル】:なし


────────────────────



 配合してレベルが下がったことにより、ステータスも下がってしまった。

 だがしかし、元のベビードラゴンよりはマシだ。ベビードラゴンはレベル3時点まで、全てのステータスが1だったからな。

 このままレベルを上げれば、元のベビードラゴンよりも強くなれるだろう。

 

 さらに新たなスキルも習得している。

 超音波、これはバットのスキルだ。

 スキルのレベルもバットの時と同じなので、どうやらスキルのレベルは継承されても下がることはないらしい。


「着実に強くなっている。これまではスライムしか試したことがなかったが、今後は……こいつらを主軸にどんどん配合を試そう」


 ここで1つ、唐突におもしろいことを思いついた。

 

「魔物同士の配合が可能なのならば……人間と魔物・・・・・も配合可能なんじゃないか?」


 魔物と人間の違い、それは古来より議論されてきた。

 哲学的には、知性や品性があるものが人間であり、それらを持たないモノが魔物であるという考え方だ。実際これは間違っていないだろう。

 魔生物学的には、人間と魔物の相違はほとんどないという考え方だ。少々体のつくりが違うだけで、”生き物”という大きな括りに所属している為に相違はないという考え方だ。


 ここは魔生物学の考え方にのっとり、人間と魔物はそう変わらないという考え方をしよう。

 つまり……人間と魔物の配合は成功するという考えだ。


 俺は配合素材を確認する。

 ズラリと並んだ魔物から、1匹を選択。

 クモ型の魔物、レッサーアラクネだ。


「緊張するな……。失敗すれば、合成魔獣キメラのようになるんだろうか」


 動悸が激しい。発汗も凄まじい。

 成功すれば俺は魔物の力を有し、求める最強の座に近づける。

 失敗すれば……最悪の場合、”死”が待ち受けているだろう。


「大丈夫だ、大丈夫。俺なら大丈夫」

 

 男は度胸。

 俺は──


「《配合術ミックス》!!」


 配合を行った。


「お、おぉ!!」


 瞬間、輝きだす俺の身体。

 この光が晴れた時、俺の意識があることを願う。

 生きていることを、強くなっていることを、切に願う。


 そして──その時はやってきた。


「……生きているな」


 光が晴れた時、俺の意識はあった。 

 身体にも特に異常はなく、鏡で顔を確認しても変化はない。

 どうやら……成功したようだ。


「よしッ!! よしッ!!」


 喜んでいると、目の前にウィンドウが現れた。


【種族:魔人 に進化しました】

【魔人になったことで、ステータス画面の表示が可能になりました】

【『ステータスオープン』と呟けば、開きます】


「……は?」


 どうやら俺は、人間をやめたらしい。

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