先従瓶始 ~先ず瓶より始めよ~

杜松の実

 一通目 

 近頃話題の新感覚メッセージアプリ〈ボトルメール〉。

 アプリのインストールが完了すると、仄暗くなっていたアイコンの色彩がクリアに灯る。アイコンに触れて〈ボトルメール〉が起動し、画面に純白の砂浜とそこに寄せては返す白波のアニメーションが映し出された。

 眺める間も無く、画面上部より波にいざなわれたガラス瓶がゆっくりと浜へ流れ着いた。ガラス瓶は浜に引っかかると、白波に弄ばれようとも、その場でころころと揺れるだけで、再びどこかへ流れ去ることはなさそうだ。

 その揺れているガラス瓶にタップしてみた。ガラス瓶は波打ち際から画面前部へぽーんと上がり、栓が独りでに抜かれて中から巻かれた紙が出て来た。

 紙が開かれようやく読めるようになる。



    〈ボトルメール〉に アカウント登録はない


    〈ボトルメール〉に 返信機能はない


    ボトルメールは いつどこへ流れ着くかわからない


    ボトルメールは 誰かに読まれるかわからない


    それでも

    ボトルメールは いつかどこかに辿り着く

    そこに誰かが居るのなら きっと拾い上げる


    さあ ボトルを電子海の流れに託そう

    さあ あなたの言葉を奇跡に委ねよう


    さあ 世界はきっと あなたが思うより広く 小さいから


                     創設者 カスピの魚

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