TOOTHING LOVE

池田春哉

第1話

 ぐにっ。

 前歯と奥歯の間、犬歯の辺りで噛み締める。


 今日は恋人の亮とデートだ。

 亮とは大学のサークルで出会い、社会人になっても順調に付き合っていた。もうすぐ5年になる。

 亮のことは今もすごく好きだし、デートもとても楽しい。

 だから尚更気を付けなきゃね、と鏡台の前で化粧をしながら自分に言い聞かせた。


 ぐにぐに。

 マスカラをまつ毛に塗りながら私は何度も噛み締める。


 私にとっては愛情表現以外の何物でもなくて。

 キスとかハグとか、そういうものと変わりないもので。

 本当は彼に伝えたい想いであるはずなんだけど。

 でもそれは伝えてはいけないものだということを、私はもう知っていた。


 チークを頬に乗せて、ぐにー、とさらに強く噛み締める。


 衝動を抑えるために、デート前は必ずこうして自分を満足させなければいけない。

 化粧を終えた私は、噛んでいたものを指で摘まんでゴミ箱に捨てる。歯型が幾重にも重なって歪んだペットボトルのキャップが、底に当たってカラリと音を立てた。

 ……ほんと。

 愛情表現はキスとかハグとか、いったいどこの誰が決めたんだか。

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