第11話さらなるフェイズ

28,報告会

扉を開けるとそこには、長机に幾つかの椅子があり、何人かの神が座っていた。


「おっ!来た来た!」元気よく話しかけてくるのは、創造の神ブラフマーだった。その横にはヴィシュヌとシヴァが座っており、三人の前にはラーとゼウス。


そして、もう一人、初めて見る神様がいた。巫女姿で黒髪を結び、目を瞑っている。あの神様は誰なんだろ?そんなことを思っていると


「私がいないからって、三神君に抱きついたりしないでくださいね。」僕の後ろでアルテミスがパールヴァティーにそう忠告していた。僕とソーラ様、そしてパールヴァティーが部屋に入るとアルテミスは扉の前で一礼し、扉を閉めていった。


そして、僕は近くの席に座る。パールヴァティーは前と同じようにシヴァの隣に、ソーラ様は僕と向かい合うように奥の席に座った。


「では、役者も揃ったわけだし、報告会を始めるとしよう。」ソーラ様がそう切り出すと全員がソーラ様に視線を向け、ソーラ様は話し始める。


「まずは、今回、神現の実の回収が出来たことはとてもよかった。これで、これからも現れるであろう神現の実を回収しやすくなるはずだ。」ソーラ様の話を聞き、心の中で同意する。これで神現の実の謎が少しは解明されるし、それによってどういう環境下で育つのか。そして、僕以外に食べた者はどうなるのか。そう一人で情報を整理していると


「何より今回は悪魔を撃退ではなく、確実に倒すことができた。しかも、ソロモン七十二柱の悪魔をだ。」ソーラ様がそう言葉を放った。そしてその言い切った瞬間、この場にいるすべての神が僕に視線を向けてくる。


「ソロモン七十二柱の二十六番目の竜の悪魔であるブネを三神君は倒すことに成功した。」ソーラ様は、僕に視線を向けながらそう言い放つ。


「まさか、人間が悪魔を倒す日が来ようとはな。」ラーが腕を組みながら、そう言葉を漏らす。今まで悪魔を倒した事例はなかったのだろうか。そんなことを思っていると


「アルテミスを守ってくれただけでも、ありがたかったというのに、まさかこんな異形を成し遂げてくれるとは。」ラーに続いてゼウスも僕を見ながらそう呟いた。


「ここまでやるとは、思っていなかったな。私たちの想像を超えて、人間は常に進化し続けるようだ。」ヴィシュヌは相変わらず目を瞑りながらも、少し口角を上げて、嬉しそうにそう言った。


「さすがだな三神!やっぱ、お前最高に面白いぞ!」ブラフマーも嬉しそうに机に身を乗り上げてそう言ってくる。


「………………。」シヴァは腕を組み、目を瞑って、何も言っては来なかった。相変わらず、シヴァには気に入られていないようだ。そう思っていると脳内に直接声が聞こえてくる。


(そなた。何者なのだ。)その透き通るような声は、今回初めて見た巫女服の神だろう。声の主だと思われる神様のこちらに体を向けて目を開く。


その開かれた瞼の中から、青く輝く瞳が僕を見つめてきた。その瞳の綺麗さに僕は吸い込まれるような感覚を覚えた。


「あなたは?」無意識に僕はそう問いかけていた。その直後また僕の脳内に声が聞こえてくる。


(我が名は、アマテラス。そなたのことは、他の神々の話で耳にしている。人間の身でありながら、神々の植物を食べた者だと。)僕はその名を聞いて、なんとなくだが、しっくりきた。


アマテラス。日本神話に出てくる主神である。まさか日本の神に会えるとは思ってもみなかったな。そう思っていると


「さて、いいかな?これからの事についてなんだが。」ソーラ様が話を切り出し、全員がソーラ様に視線を戻した。


「引き続き、神現の実の回収と悪魔の撃退もしくは、撃破してくれたまえ。」ソーラ様がそう言うとその場にいる全員がうなずいた。


「それでは。これにて、報告会を終了します。解散。」ソーラ様がそう言い終わるとそれぞれが自分達のきた扉へ向かって歩いていく。


「三神!また戦おうな!」ブラフマーが僕に手を振って去っていった。ヴィシュヌとシヴァは、会議が終わるとすぐに帰ってしまったようだった。


「実に興味深い。機会があれば、戦っている姿を見てみたいものだな。」ラーは、そう言葉を残してから、その場を去っていった。


「三神君。今度わしとも手合わせを願いたい。いい運動になる事を期待しているぞ。わっははは!」高笑いしながらラーに続いてゼウスもその場を去っていた。


(そなたとまた、相見えることになるであろう。)アマテラスもそう僕に伝えてからその場を去っていく。みんな忙しいんだな。そんなことを考えていると


「涼太君〜♪」パールヴァティーが僕に後ろから抱きついてきた。


「パールヴァティーさん。また、アルテミスに怒られますよ。」ソーラ様が微笑しながらそう言って、歩み寄ってくる。


「今は、あの子がいないからいいの。」パールヴァティーはそう言って、僕の事をさらに強く抱きしめてくる。正直、陰キャにはこういうのに耐性がないから早く離れてほしいのだけれど。そんなことを思っていると僕達が入って来た方から扉が開く音が聞こえてくる。


「パールヴァティー様。」冷淡な声が聞こえてくる。パールヴァティーがゆっくりと声のした方へ振り向くと開いた扉のところには、冷たい目線を向けたアルテミスが立っていた。


「あっは。あはは。」パールヴァティーは、笑顔で誤魔化そうとするがそんなことをお構いなしにアルテミスは、こちらに近づいてくる。


「パールヴァティー様?あちらで少しお話しをしましょう。」アルテミスはそう言うとパールヴァティーを引っ張っていった。


「助けて〜!涼太君!!!!!!」パールヴァティーはそう叫びながら、アルテミスに連れていかれる。一番怒らせちゃいけないタイプは、神様にもいるんだな。そう思いながら僕が苦笑いをしていると


「三神君。」突然、隣からソーラ様が僕に話しかけてくる。


「君に改めて問いたい。これからも私たちに協力してくれるかい?」真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。僕は、軽く笑顔を作り、軽く頷いた。


「はい。実を食べた者の責任として、最後まで付き合わせてもらいます。」そう言って、僕はソーラ様と強く握手を交わした。


29,フェイズ・スリー

報告会が終わった後、ソーラ様が僕の部屋をエデンに再現してくれたらしいので、再現されたという僕の部屋にに向かっていた。


まさか人間界にある僕の部屋をここに再現するとは、やっぱり神様は僕らのできないことを容易にやってのけるんだな。そう思いながら空中都市を出て、花畑のある道を歩いていると


「おい。人間。」後ろから声が聞こえ、声のした方を振り向くとそこには、腕を組みながら、こちらに歩いてくるシヴァの姿があった。そして、シヴァが僕の前で足を止める。


「ちょっと来い。」シヴァはそう言って、僕の隣を通っていく。僕は言われるがままシヴァについていく。


向かう道中、僕はシヴァに話しかけてみたが、シヴァはこちらに見向きもせず、無言で歩き続ける。僕は話しかけるのをやめて黙ってついていった。


ついていく先に闘技場が見えて来た。僕とシヴァは闘技場の広場に入り、互いに向かい合った。まるで今から戦うと言わんばかりに。そう少し警戒をしているとシヴァが腕組みをやめる。


「来い。トリシューラ。」シヴァがそう言うとシヴァの前に紫色の光が集まり、槍の形を形成していく。それをシヴァが掴むと槍に纏まりついていた紫色の光が弾け、その姿があらわにした。


金色の刃と紫色の持ち手に螺旋状に纏まりつく金の鎖。その槍が現れた途端に鳥肌が立つようなとてつもない力が感じとれた。


「これが、『フェイズ・スリー』だ。」シヴァは槍を持ちながら、僕に視線を向け、そう告げる。


「『フェイズ・スリー』?」僕は理解が追いつかなかった。なぜいきなり、僕を毛嫌っていたシヴァがそんなことを言ってきたのか。そんなことを一人考えているとシヴァはため息をつきながら、話し始めた。


「フェイズ・スリーは、自分にあった武器を形成できるフェイズだ。フェイズ・ワンで作り出すオーラの一部を武器に変換し、フェイズ・ツーで自分が纏えるものを流し込み、力を発揮させる。フェイズ・ワンとフェイズ・ツーができれば大体はできる。お前は、まだフェイズ・ツーが完璧に使えていないようだが、一応教えておいた。後は自分でやってみろ。」話し終えるとシヴァは武器を手離した。直後、武器は光の粒になって、シヴァの中へ戻っていった。


『フェイズ・スリー』とてつもない力だ。それをするためには、ワンとツーの完全マスターが必須ってことか。僕は目を瞑って意識を集中させる。


フェイズ・ワンに入り、フェイズ・ツーでブネとの戦いの時のように炎を全身に纏わせる。だが、武器のイメージが湧かず、フェイズ・スリーまで到達しなかった。


やはり僕には、まだ作ることはできないみたいだ。力を抜いて、通常の状態に戻り、目を開くと、シヴァがまた腕を組んでこちらに視線を向けてくる。


「フェイズ・ワンは、できて当然として、フェイズ・ツーを完全習得したいなら、とにかく使い続けることだ。己の纏い、使うものを自在に扱えるようになるまでな。」シヴァはそう言ってから、ゲートを開いて帰ってしまった。


シヴァって、本当はすごくいい神様なのかもしれない。破壊を司るくらいだから問答無用で消してくる神だと思ってた。いい意味でイメージを壊してくれた神様だな。


そう思った後、僕は数十分ほど闘技場でフェイズ・ツーを使い続けた。自分の体に纏いながら、修業をし続けた。


修業を終え、ソーラ様が再現してくれた僕の部屋へと向かっていた。


「汗かいたし、シャワー浴びて、寝よ。」僕はそう呟きながら、汗を拭う。


フェイズ・スリー。簡単に言えば専用武器を作り出すフェイズ。できるようになれば、今よりももっと戦いやすくなるだろうな。


僕はそんなことを考えながら、シヴァに毛嫌いされていなかったことを思い、内心喜びながら向かっていった。

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