第10話ぶつかり合った力

24,無我夢中に

私は正直驚いていた。彼がフェイズや属性のことをほんの少しかじっただけで、悪魔と闘い合えるとは、思ってもみなかったからだ。


いくら私達、神々や悪魔達が地上では、力の制限を強いられているとは言えども、いくら彼が私達に近しい力を手に入れていたとしても


ほんのわずかな戦闘経験で悪魔と戦い合えるだけの実力を身につける彼の成長スピードは異常なほど早い。


そんな風に驚いていると屋上から少し離れた地点で両者の技のぶつかり合いによって、爆発が起きる。


爆発によって生まれた煙から涼太君がこちらに向かって飛んでくる。床を転がりながらも体勢を立て直して再びブネの方へと向かって走り出す。


私は彼の背中を見て、もうやめなさいなんて言えるわけもなく、ただ彼とブネの戦いを少し離れた場所から見ていることしかできなかった。


「「うおおおおおおおおおおお!!!!!」」

二人の力のこもった声が暗い夜の町に響き渡る。


私達、神の力で無人と化したこの町で、ただ一人の少年と悪魔の戦いが音を立て、爆発によって町を照らす。


互いに無我夢中に戦い続け、何度もぶつかり合っては、吹き飛ばし合う。


諦めることなく、空中で互いにダメージを与え合う。一瞬たりとも気を抜かない力のぶつかり合いは、周辺の建物をも巻き込んでいった。


そして、長き戦いに終止符を打つかのように、今彼らはビルの入り口前で向かい合っていた。


ビルは半壊状態、周辺の建物もほぼ同じように彼らの戦いによって壊れている。激しいぶつかり合いによって、互いに体力はゼロに等しいはず。


どちらが勝ってもおかしくはない。次の一撃で勝負が決まる。もしかしたら、涼太君が負けてしまうかもしれない。


そう思って彼の手助けをしようと体を動かそうとしても、今彼とブネの世界に私が入って勝利したとして、彼はどう思うだろう。


きっと、勝てたことに対しての喜びや手助けをしてもらえた感謝は生まれるだろう。けれどそれは心の底からの感情ではない。


「頑張れ。涼太君。」私は諦めず戦い続ける彼を見てただ一言そう呟いた。彼ならきっと勝つ。


私は信じてあげることが、今の彼の意思を尊重してあげることが、神としてすべきことだと思えた。


25,悪魔の剣と人間の拳

俺達は戦い続けた。何度もぶつけ合っては傷つき、立ち上がった。


そして今、ビルの入り口前に降り立ち、互いに息を整えながら睨み合う。


「次の一撃で確実に終わらせる。」ブネがそう宣言すると、全身と剣に青黒い炎を纏わせて構えをとる。


俺もそれに応じるように構えながら、頭をフル回転させる。


ドライブ・ノヴァじゃ、ダメだ。あっちも奥の手を出してくる。このままだと確実負ける。どうやったらこいつに勝てる。考えろ。頭使え。


そう思考を巡らせ、ある事を思いついた。

だがそれは、うまくいく保証もなければ、ドライブ・ノヴァ以上のパワーが出せる確証もない。


けれど、そんなこと今はどうでもいい。やらなきゃやられるそれだけだ。やってみなくちゃ始まらない。


俺は決意を固め、思いついたことを実践する。炎を手から全身へと広げ、炎を纏わせる。


くぞ!」ブネがそう叫び、こちらに勢いよく向かってくる。同時に俺もブネの方へと向かっていく。


竜閃りゅうせん猛進もうしん!」全身に纏った青黒い炎がさらに燃え上がる。互いの距離が狭まっていく。


ある一定の距離まで狭まったところで俺はドライブ・ノヴァを打つ時と同様に空中で回転させる。


そこに加えて、回転しながら左手を後ろに陰し、炎を噴射し、さらに勢いをつけた。


「な、何⁉︎」ブネは俺の行動を見て驚きを声に出す。後方に炎を噴射したことによって、先程よりも間合いが縮まったことによってブネの計算が狂ったのだろう。


その証拠にブネが体勢の整っていない状態で剣をこちらに振ろうとしているのがわかった。


賭けは、俺の勝ちだ。ブネ。心の中でそう叫びながら、右拳をブネ目掛けて放つ。


「クラッシュ・ドライブ・ノヴァ!」俺はそう叫び、拳を伸ばすとブネの剣とぶつかり合った。


「「うおおおおおおおおお!!!!!!!」」

互いに今出せる力の全てをのせて放った技。真っ向からぶつかり合ったなら、俺の技が負けていたと思う。


だが、誤算だったのは、俺が一気に間合いを詰めたことによって生まれた力の入れるタイミングのズレ。


それによって、ブネの剣に伝わる力は普通に技を放つ時よりもパワーはなく、俺の力で押し切れる。


そう思った刹那、ブネの剣を砕き、俺の拳がやつの腹に入った。


「ぐはっ!」まだだ。俺は心の中でそう呟き、左手で噴射していた炎の勢いをさらに上げる。


「これで終わりだ!!!!!」叫び、右拳に力を込め、腕を振り切る。


すると振り切った直後、ブネの腹部で爆発が起こり、そのままやつは近くの壊れた建物へと吹き飛んでいった。


「後方への炎の噴射で……相手の間合いを詰めるとはな。……見事だ。」ブネは、建物の残骸に寄りかかりながら、最後にそう呟いて瞼を閉じた。


「ハァ、ハァ、かっ、勝った。」俺は両手を膝につけ、そう呟いた。その直後、体から力がすべて抜けてその場に倒れた。


呼吸がうまくできない。流石にこの肉体状況でやれば負荷がかかりすぎるやり方だったか。一人でそう反省しながら、なんとか息を整えようとする。


まだ実を回収してない。だからまだ。ありもしない力を振り絞ろうとしていると僕の前に誰かが降り立ち、屈むのがぼんやりと見える。


「よく頑張ったね。偉い偉い♪お姉さんも驚いちゃた。あとはお姉さんに任せて♪ゆっくり休んでいいからね♪」その人はそう言って僕の頭を優しく撫でてくる。


その声は優しく、安心感を与えてくるようだった。その言葉を最後に、僕の意識は途切れた。


26,決着の後

両者の技のぶつかり合いは、涼太君の技がブネの剣を砕き、そのままブネを殴り飛ばして、決着を迎えた。


「………勝った。涼太君が。」私は、その光景を呆然と見てながらそう呟き、自分の見ている光景が真実であることを認識した。


人がソロモン七十二柱の悪魔を倒した。私達でさえ、地上では手を焼く悪魔達の中でも最高クラスであろうソロモン七十二柱の悪魔を。


「やっ。やった!!!!!!」私は、一人その場で飛び跳ねてから喜んだ。そして、すぐに涼太君の元へと向かっていった。向かっている途中、涼太君その場に倒れのが見えた


「涼太君!」彼の名前を呼び、近くに駆け寄ると彼は必死に息を整えようとしていた。


だいぶ負荷のかかる技をしたのだろう。遠くからだと認識しずらかったが放ち続けていた技とは違う別の技を出していたのはわかっていた。


「よく頑張ったね。偉い偉い♪お姉さんも驚いちゃた。あとはお姉さんに任せて♪ゆっくり休んでいいからね♪」私は労うようにその場に屈んで、彼の頭を優しく撫でてそう語りかけた。


すると彼はゆっくりと目を瞑った。鼓動はしているし、脈も安定してきてる。だいぶ無理してたけど、命に別条はなさそうね。そう思いながら、私は彼をおぶって屋上へと飛び戻る。


神現の実を結界で囲って異空間に収納し、エデンへのゲートを開く。ゲートを潜る前に彼の方に少し視線を向ける。


この子はすごいことを成し遂げた。この結果を知れば、この子が消されることはないだろうし、他の神々も彼の存在を認めざるおえないでしょうね。


そう思うとなんだか嬉しくなってきてしまった。可愛い寝顔しちゃって先までの彼からは考えられないわね。そんな風に和んでいた時だった。


「なるほど。…中々興味深いな。」私の背後から声がした。振り向くとそこには、仮面をつけた男女の識別のつかない悪魔がいた。


「あなた…何者?」私は警戒しながら仮面をつけた悪魔にそう訪ねる。どこかで聞いたことのあるような声だけれど。


「私のことを忘れたか?まあ、無理もない。」私が考えていると悪魔はそう言って、仮面を外して顔を見せる。


やつの顔を見て思い出した。かつての豊穣の神にして、現在はソロモン七十二柱の序列一番の悪魔。バエル。


「あなたも復活してたのね。」私は警戒をさらに強め、問いかける。涼太君をおぶったまま戦うのは不利だけれど、満身創痍の彼をこのままにしておくのも危険だわ。


涼太君の安全確保を模索しているとバエルはこちらに背中を向けて話し出す。


「今回は我らの負けで良い。ブネがやられるのは計算外だった。また次に期待だ。」そう言って、ブネを念力で引き寄せた後、その場から消えていった。


「ソロモン七十二柱は、どのくらい復活してるのかしらね。」警戒を解きながら、疑問を呟き、私はエデンへのゲートを潜ってその場を後にした。


27,二戦目の成果

目が覚めると知らない天井が視界に入る。ここはどこだろう?自分が仰向けでベットに横たわっているのがわかった。


「目が覚めたみたいね。」声がした方へと目をやると、椅子に座ってこちらに優しい目を向けているアルテミスの姿があった。


「…アルテミス。ここは?」僕が体を起こしながら、アルテミスにそう問いかける。


「ここは救急室。重症者がいた場合のみここを使うんだけど、今回は特別に使わせてもらってるの。」アルテミスは丁寧にそう説明してくれた。


ブネを倒した後どうなったんだろ?あの後の記憶がなく、思い出そうとしているとアルテミスが口を開いた。


「パールヴァティー様から聞いたわ。三神君。ソロモン七十二柱の悪魔を倒したんだってね。」そう言うとアルテミスの目が優しい目から心配するような目へと変わった。


「あの後どうなったか、アルテミスは知ってるの?」ブネと決着がついた後、どうなったか正直まったく覚えていない。僕の質問にアルテミスは答えた。


「三神君がブネという悪魔を倒した後。気を失ったみたいで、パールヴァティー様が君をおぶって帰ってきたのよ。もちろん実も回収してね。」そう言うとアルテミスは、ゆっくりと僕の手を優しく握ってくる。


「アミーの時のように無茶したのかもしれないって心配だった。でも、パールヴァティー様の話を聞いて正直驚きの方が勝ちゃたよ。あのソロモン七十二柱の悪魔を倒すなんて。」そこまで言って、アルテミスの目は真剣な眼差しへと変わった。


その瞳にはどこか、怒りの感情のようなものを感じとれた。


「君は、すぐ無茶をするから本当に心配。けど君に何を言ってもきっと決めたら止まらない人だと思う。」そこまで言うとアルテミスはまた心配そうな目をして顔を上げる。


「……無茶だけはもうしないで欲しい。」そう言って、僕の手を強く握りしめてくる。本当に優しいな。アルテミスは。そんなことを思いながら、僕は握られた手を握り返しながら答える。


「……わかった。出来るだけ無茶はしないようにする。」アルテミスを安心させたかった。なんでだろうか久しぶりに心の温もりを感じた気がした。


そうしていると奥の扉が開き誰かが部屋に入ってきた。ソーラ様だ。


「目覚めたようだね。」僕を見るやいなや、ソーラ様は笑顔を向けてそう言ってくる。するとアルテミスは握っていた手をゆっくりと離し、ソーラ様の方を向いて一礼する。


「よく頑張ったね三神君。君のおかげで神現の実も回収できたし、ソロモン七十二柱の悪魔を一人倒すことができた。本当にありがとう。」ソーラ様はそう言って、僕に頭を下げてくる。


「頭を上げてください!僕は別にそんな大層なことはしてないですよ。」僕は焦りながら、ソーラ様にそう言った。


とにかく早く頭を上げてほしい、神に頭を下げさせる人間って、普通にやばいだろ。などと思っていると。


「涼太君!!!!!!」僕の名前を呼ぶ声が聞こえたかと思った直後。とんでもない勢いでソーラ様を跳ね除け、パールヴァティーが僕に抱きついてくる。


パールヴァティーの胸が顔を包むように当たる。く、苦しい。ラブコメ主人公の気持ちがわかるようなわからないような。そんなことを思っていると。


「パールヴァティー様!なっ!何やってるんですか⁉︎離れてください!」アルテミスがパールヴァティーにそう叫んだ。


パールヴァティーは僕に抱きついたままアルテミスの方へと顔を向け、頬を膨らませながら返答する。


「だって涼太君が恋しかったんだもん。このくらい、いいじゃないのよ。ねぇ?」パールヴァティーはそう僕に同意を求めてくる。


「お気持ちはお察ししますが、三神君は怪我人です!とりあえず離れてください!」アルテミスはそう言って、パールヴァティーの肩を掴んで僕からひっぺがしてくれた。


苦しかった。さっきの胸の感触が顔に残っている気がする。ってアホか。


顔叩いて、邪念を払い二人の方を向こうとする。ふと視界にパールヴァティーに跳ね除けられ、壁に顔を突っ込んでいるソーラ様が目に入った。


「ちょっ!大丈夫ですか⁉︎」僕は、ベットから立ち上がりソーラ様を壁から引っ張り抜いた。


「あはは。思っていた以上に痛いね。」ソーラ様は苦笑いしながらそう言って、頭にできたたんこぶをさすっていた。


相当な勢いで吹っ飛ばされたのだろうな。アニメ世界でしか見ない光景だな。ソーラ様を立ち上がらせて、二人を見るとアルテミスにパールヴァティーが叱られていた。


アルテミスに怒られながら、パールヴァティーは指をツンツンしながら説教を受けていた。なんだか子と親のようで少し和んだ。


その様子を見て僕とソーラ様は顔を見合わせ、笑いをこぼしていた。その後僕は三人と一緒に今回の件と今後の話し合いをするために会議室へと向かった。


三人の話を聞くと僕はブネとの戦いから人間界で二日間程眠ったままだったらしい。本当にそんなに寝ることあるのかと内心一人で驚いた。


僕がブネを倒したことは、神々に噂として広まっていったらしく、この二日間はその話題で神々が騒いでいたらしい。人間が悪魔を倒したと。


「パールヴァティー様。今後絶対に抱きつくなどの行為はしないでください。いいですね。」僕とソーラ様の後ろを歩くアルテミスがパールヴァティーに向かってそう告げる。


「もう、わかったてば〜そんなカリカリしないの♪」そう言いながら、パールヴァティーは後ろから僕に抱きついてくる。


恥ずかしいし、陰キャにハードル高いというか。そんなことを思いながら顔を赤くする。


「ねぇ〜涼太君♪お姉さん、ちゃんとわかってるよね♪」そう僕に問いかけながらパールヴァティーは僕を抱きしめて歩く。


「全然わかってないじゃないですか!」そう叫んでアルテミスが再びパールヴァティーを僕からひっぺがした。


本当この神様スキンシップすごいな。あとアルテミス、ありがとう。僕はそう思いながらソーラ様の隣を歩く。


「…そろそろ着くよ。」隣を歩くソーラ様からそう告げられ、気を引き締める。そして扉が開き、会議室へと僕達は足を踏み入れた。

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