第108話 鎌鼬
翌朝
この日は嬉しいニュースが入った。
朝起きたばかりのオレのもとへ、『
『――どうだった!?』
『……成功です!』
成功。
この言葉が表すのは、人斬りに関する情報を入手できた、ということだ。
『そして、犠牲者は0です! 数人は重傷を負いましたが、すでに回復術師により、治療済みです。目覚めるのも時間の問題かと』
『そうか! なら、今夜はオレ1人で出るとしよう』
『……1人で、ですか?』
こいつの言いたいことはわかる。
逆の立場でもオレは同じ不安を抱くだろう。
『1人の方が動きやすいんだ』
『そういうことでしたら……ですが、何かあれば必ず合図を送ってください』
『ああ』
その後、綿密な打ち合わせを済ませ、『
相手の騎士は、騎士団長にも一目置かれている策士だそう。だから『
「さて、今日も夜までこれで過ごすか」
そのとき、
ぐぅぅ……
と腹の虫が鳴いた。
「そういや、朝飯がまだだったな」
時計を見ると、時刻はすでに朝の8時。
起きたのは7時前だったと思うんだが……。1時間も打ち合わせをしていたのか?
1階に降り、朝ごはんを食べる。
夜ごはんは少なめにするから、昼はたっぷり食べないとな。
そして宣言通りに昼ご飯をたらふく食べ、就寝。
真昼間で、5時間前に寝覚めたということもあり、なかなか寝付けなかった。
しかし今度は、寝付けたと思ったら、眠りが浅いし短かった。
目覚めたのは午後4時だ。
まあ、ちょうどいい時間か。
その頃、とある場所。
そこにいる魔物連合盟主に、側近のボロボロマントが質問を投げかけた。
『あの……盟主様』
「なんだ?」
『……この頃、
【六道】と名付けられた魔物たちは外に出ることを禁じられている。
この場所もそこそこ広いとはいえ、1日も姿を合わさないなんてことはない。
にも関わらず、
「ああ、ちょっと実験をな。大丈夫だ、心配はいらない」
『ならいいのですが……』
「さてと、我らもやることをやろうではないか」
『は!』
こうして、魔物連合は着々と、人類を滅ぼす計画を進めていた。
そして再び、都市ライサン。
時刻はすでに18時を経過し、辺りは夕闇に包まれつつあった。
「【水晶使い】様、くれぐれもお気を付けください。この魔法具を使用すれば、援軍が向かいます」
見回り前に騎士団駐屯地に寄り、騎士から魔法具を預かった。
これを投げれば……早い話、信号が上がる。
二重の構えとして、花火と警報の信号だ。
「ああ、勝機が見込めなかった場合、撤退しつつ、援軍を頼るとする」
「では、お気を付けて」
「ああ」
同伴は断った。
隊長級ともなれば、一介の騎士や冒険者では相手にならないからな。
騎士隊長や【放浪者】、騎士団長、副団長じゃないと。
念の為、敵に関する情報を整理しよう。
敵の姿は不明。と言うのも、外套を被っているらしい。
武器はおそらく、爪。犠牲者の傷口はスッパリと綺麗に斬り裂かれていた。
突然現れ、突然消える。
正直、大した情報はない。ないよりマシではあるか。
オレは見回りを開始した。
昨日見回り班が遭遇したのは、商店街近辺。だが、人斬りは神出鬼没。
オレは魔力探知と『透視』を発動させる。
これさえあれば、大抵の魔物は発見できる。
そして覚醒状態にしておく。
正直、今回の犯人――人斬りは、魔物連合第十隊隊長ではないかと睨んでいる。
というのも、その隊長は人狼。人狼は暗殺に優れた魔物。
おまけに、人狼は鼻が利く。標的を即座に発見できるだろう。
念には念を入れ、『晶装・剣』を3本、背後に待機させておこう。見た目も重視だ。
これで、背後からの奇襲は防げるはずだ。
維持魔力はかかるが、微々たるものだ。
2時間ほど歩いた。そのとき、
「雨か……」
雨が降り出した。
日はすでに落ちており、辺りは真っ暗だ。
だが、オレには真昼の如く見える。
この仮面の
雨足はどんどん激しくなってきた。
傘なんか持っていないからな。びしょ濡れだ。
服に水が染み込むことはない。靴は濡れるが。
このコートも、その下の服もズボンも魔法的効果により、完全な撥水性を持っている。
靴は……丈夫だが、撥水性はない。ある程度の撥水性はあるんだが、水たまりもあるし。
最初は水たまりも避けていたが、雨で濡れてくると、もういいやとなった。
幸い、雨水をたっぷり吸っても重いとは感じない。……覚醒のせいか?
視界も、仮面を着けているから問題なし。
そろそろ出てきてもおかしくない頃合いか……。
そしてしばらく進み、住宅街の一角に差し掛かった。
雨のせいで、足音を捉えることが難しい。そのため、時々後ろを振り返らないといけない。
それに、ここは住宅街。
脇道や物陰が溢れており、感覚を研ぎ澄ませる必要がある。
いつ奇襲を受けてもおかしくない。
敵は急所を的確に狙ってくる。
胸はオリハルコン製の
余裕があれば、少しでも攻撃方法を増やすため、武器に回す人が多い。
オレは両方実現させている。
その時――後ろに気配を感じた。
だが、振り返っても何もいない……。
気のせい……と思い、首をもとに戻す。
……気のせい? そんなわけないよな。
オレは走り出し、再び振り返った。
そのとき、目の前すれすれを何かが横切った。
「くっ……!」
そこには外套を纏った何かがいた。
腰まで届く長い袖。下の方もギリギリ外套に隠れていて見えない。
「……ようやくおでましか」
『その仮面……その服……【水晶使い】か』
「ああ。で? お前は?」
『……さぁな』
騎士道や武士道精神は持ち合わせてはいない相手か。面倒だな。
隊長級ともなれば、ちゃんと名乗ってくれ……人狼は名乗らなかったな。
「素顔を見せたらどうだ?」
『……剥ぎ取ればいいだろう?』
「……お前は『人』か魔物か?」
『……魔物に決まっているだろう。はぁ……――』
次の瞬間、人斬りはこちらに背中を向けた。
ひゅお……
……風? 人斬りの方から吹いてくる。
魔力を帯びている。魔法か。
『――『
その瞬間、上から凄まじい風が吹き下りてきた。
正直、立っているのもやっとだ。
「――『晶装・剣』!」
背中に待機させていた『晶装・剣』は『
この魔法の範囲はオレを中心に半径1メートル弱ほどだ。
おまけに人斬りは魔法操作範囲内にいる。
水晶の剣は真っすぐ、人斬りを捉えている。
人斬りは何もせず突っ立っているだけだ。そこに3本の水晶の剣が今にも当たりそうになったとき――3本とも真っ二つにされた。
「!?」
魔法の発動は感じられなかった。両腕が一瞬、ぶれて見えた。叩き折ったのか?
だが、その剣は魔力由来だ。
『晶弾・剣』は『晶弾』に変化し、人斬りに襲い掛かる。
『――『
人斬りを中心に風が発生し、『晶弾』がすべて弾き飛ばされる。
人斬りは落ち着き払ったようすで、再び魔法を唱えた。
『――『
風の斬撃が迫る。
「――『晶壁』!」
だが、まるで何もなかったかのように、『晶壁』をすり抜けてきた。
――いや、すり抜けたかのように見えた。
その魔法は『晶壁』を綺麗に切り裂いたのだ。
……やばい。何か対処法は……『晶壁』が破られたんだ。他の魔法も優に突破されるだろう。
風……風……!
真上に『
『晶盾』は地面に向け、勢いよく落ちた。その途中で『
住宅すら切り裂くのではないかと不安になったが、オレの立っていた場所のすぐ後ろで魔法は消滅した。
こいつは間違いなくやばい。
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