第107話 人斬り
宣戦布告から1か月が経過した。
残念なことに、この1か月の間に1つの都市が陥落した。
エルフの都市の1つだ。その都市の名はライサン。
なんでも、連合の隊長が3体同時に攻めてきたらしい。
【放浪者】や腕利きの騎士や冒険者も数人いたが、隊長3体の前には歯が立たず。
都市の人間は皆殺しだそう。
ライサンは魔物の巣窟と成り果てたそうだ。
ライサンを滅ぼした連合の隊長はどの隊なのか、なんの種族なのか。情報は一切不明。
まあ、皆殺しだったわけだからな。
依然不明と言えば、連合の盟主だ。
不可解な配下の魔物の言葉。
雑兵はおろか、隊長ですらその素顔も見たことはないらしい。
魔物の言葉を信じるなら、盟主は生まれて1年も経過していない。
だが、連合はそれよりも先に活動を開始していたという。
未だに連合の隊長は討伐されていない。
先が思いやられる話だ。おまけに、降伏を口にする者まで現れだす始末。
あいつら連合の目的はみんな知っているはずなんだがな……。
連合は全部で10の隊からなる。
3は、魔術部隊。
9は、隠密部隊。
10は、暗殺部隊。
その他の1,2,4,5,6,7,8は不明。
魔物の数を考えるに、その隊に所属する魔物も参戦している。
今となっちゃ、隊ごとに攻めてきているわけではないから関係ないか。
隊の特徴、役割を知って得ることができるのは、その隊の隊長の攻撃方法の予測ぐらい。
で、オレが今、何をしているのかと言うと、「どうせ戦闘中だろう」と言われるだろう。
だが、今回ばかりは違う。
外に出ると星空。
そう。オレは宿で寝ているのだ。
ここはへラリアのシヴィル領にある都市の1つ、デュレース。
正直、休んでいる時間すら惜しい。だが、これは生命として必要な行為であり……。
実を言うと、この都市は絶賛侵攻されている最中なのだ。
だが、その侵攻は武力による侵攻ではない。
毎夜毎夜、人斬りが発生するのだ。
先日は領主の次男が斬られたらしい。
斬られるのはこの都市の中枢に根を張る人物ばかり。
被害者から、魔物連合によるものだろうという結論に至っている。
そう、この都市はじわりじわりと侵攻されているのだ。めちゃくちゃ地味に。
こんなだから、勘のいい数人は逃げ出したが、全員、森の中で殺されているのを発見された。
全員まとめて。
そして、これが人斬りが魔物であるという説の確信を高めたのだ。
憶測だが、今日で侵攻10日目。
幻術を見破るには『透視』が必要なのだが、『透視』が付与されている仮面は少ない。
ほんの数人にしか与えられていない、超レアもの。
オレがちょうど王都上空を飛んでいたら騎士団長に見つかり、派遣されたというわけだ。
おまけに、この都市には最強決定祭で因縁をつけてきたアライバルがいる。
覚醒していないため冒険者だが、あの祭に参加しただけあって、冒険者の中ではそこそこの上位者……だろうなぁ。
詳しいことはまったく知らね。
で、人斬りが発生する夜に寝ていていいのか、と。
いいのだ。
だって、今日は満月で月明りで道がよく見える。
今日はひとまず、都市在住の騎士と魔鉱級の冒険者が見回りだ。
念の為、オレも狙われる可能性は十分にあるため、自動迎撃の魔法具をセットし、『
誰かがこの部屋に入ってきたら魔法具が反応し、攻撃。
それと同時に『
翌朝。
異常はなし。部屋に誰かが侵入した形跡もなし。
魔法具も未発動、『
見回りはどうだったのだろうか?
騎士団駐屯地に聞いてみようか。
『はい、こちらデュレース騎士団駐屯地……【水晶使い】様、いかがされましたか?』
『昨晩、人斬りは出たか?』
『……偵察部隊が1つ、殺られました』
『!?』
腕利きを集めた偵察部隊のはずだろう!? それがあっさりと?
せめて抵抗し、増援を呼ぶことも……オレを呼ぶこともできたはずだ。寝てたけど。
『犯人はやはり……同一犯のようです。それも、かなり腕利きのようです』
『覚醒して見回らせていたのか?』
『ええ、万全の体勢で回るように指示が出されておりました』
たしか、最低でも3人で編成されていたはずだ。
複数のパーティーで見回りをさせていたから、殺されたのが1パーティーなら、他のパーティーは無事か。
『……今晩は私が出ようか……』
『お待ちください! 貴方は『人』の希望! そんな危険地帯に送り出すわけにはいきません!! 何卒、情報が集まるまでお待ちを!!』
こいつ……オレがここに来た意味を理解していないな。
『オレはこの都市を救うように、と派遣されたんだが……? 今も連合に襲われている都市はいくつもあるんだが……?』
『…………』
『……強情だな。わかった。今晩は出ない』
こいつの意見も理解できるし、聞かないわけにはいかない。意見の尊重だ。
『ありがとうございます!』
『だが、明日は出るぞ?』
『は!』
話がひと段落したところで、『
今晩は出ない。
なんなら、この宿からも出ない方がいいかもしれないな。
敵に見つかって襲われたら、他の客に迷惑がかかる。もう見つかっている可能性もあるか。
人斬りは重要人物しか狙わないらしい。
昨日のは……戦力にはなるよな。大損失だ。
減り続けるこちらの戦力。底の見えない敵方の戦力。
魔物も生き物だから、限界は必ずあるはずなんだが……。まるで終わりが見えない。
もう、討伐数は万を超えたんじゃないか? 森の面積の方が『人』の生活圏より圧倒的に広いとは言ってもな……。
多すぎる。隊長も戦場に出てこないし。こっちの騎士団隊長は休みなく出ているのによ。
騎士団はブラック企業だな。休みがない。
休暇制度は残っているままなんだけど、この状況で休めるはずがない。
仲間と、家族と、友が後ろに立っているわけだ。
数年前、村にスライムが攻めてきたことを思い出すな。
父さんたち村の男衆が命懸けで戦いに行ってたっけな……。その瞬間、寝てたから見てないけど。
さて、そうと決まれば、さっそく朝飯!
フレイにはこの都市にいる間、休ませるから連絡は不要だが……適度な運動は必要なんだよな。動物だから。
謝っておくか。自体が解決されるまで、オレがここにいることを知られることを防ぐために動けませんよ、と。
フレイは渋々ながらも快諾してくれた。
だがオレは知っている。
この宿の餌が、高級宿に匹敵する質であるということを。
だからこそ、ここを選んだわけだが。
この宿屋は、アヌースやヒューギーに乗る人からすれば有名だ。
ただ、ヒューギーを主に扱うのは十字架部隊だ。やつらは、冒険者組合の部隊だから、ヒューギーは組合が預かる。
ここを使うのは、成功している商人や、大手の商社に所属する人、上位冒険者、【放浪者】に限られる。
大抵の場合は商人だが。
そんなわけで基本、一部屋は空いている。
使う人が限られているせいでな。
さて、と。
朝飯を食べに行こうか。
敵の目がどこにあるかわからない以上、【水晶使い】の恰好はすべきではないな。
と、いうわけで、コートは脱いだままで、仮面も着けない。
これなら誰もオレを――魔法を使わない限りは――【水晶使い】と認識できまい。
そのまま、オレはそのラフな格好で過ごした。
念を入れ、三度の飯のとき以外は部屋から出なかった。
引きこもりの生活はこんな感じなのかな……。
そして夜。
少しでも情報を持ち帰らせるため、パーティーを1つにまとめ、大規模にしたようだ。
これなら、誰かは生き残るなり、情報を伝えることができるだろう。
お偉いさんの警護ももちろん、抜かりはない。
警護に当てられていない、かつ優秀なメンバー構成だそうだ。
人数は12人。いずれも覚醒者。
おそらく今夜、この都市で暇な覚醒者はオレだけだろう。
問題は、敵がこのパーティーを襲うのか、という点だが……。殺気でも撒き散らせておけば寄ってくるかもしれない。
ま、それは運次第といったところか。
だが、オレは謎の確信を持っていた。
人斬りは現れるだろう、と。
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